テレビでは全く放送されなかった男子81キロ級の複雑な国際政治的背景。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

昨日の男子81キロ級は、柔道と国際政治について、考えさせる非常に難しい状況だった。日本人だけを取り上げるような放送ではなく、男子の決勝トーナメントとともにその状況をきちんと伝える、という放送も、作ろうと思えば作れたのだ。そのことについて、解説します。

 優勝したのがイスラエルのムキ。決勝の相手はベルギーのカッセだったが、この階級の昨年世界王者、今回も優勝候補筆頭だったのは、イランのモラエイ。世界ランクもモラエイが1位、ムキが2位。

昨夜は、イランのモラエイは準決勝でベルギーのカッセに敗れたため、イスラエルのムキとは対戦することはなかった。

 イラン政府は、政治的宗教的に対立関係のあるイスラエル選手との対戦を認めていない。そのため、長くなりますがモラエイ選手についてのWikipediaから引用します。

「グランドスラム・アブダビでは準決勝でベルギーのマティアス・カスと対戦するも、開始早々に左足首を挫いたとして棄権負けになった。しかし、IJFからは今回の一件が決勝でイスラエルのサギ・ムキとの対戦を避けるための虚偽申告だと判断されることはなかった[7][8]。なお、2018年には世界ランキングの年間1位となった[9]。2019年のグランドスラム・パリでは準々決勝で世界ランキング209位に過ぎないカザフスタンのラスラン・ムサエフに開始早々一本背負投で敗れたが、続く準決勝でイスラエルのサギ・ムキと対戦することを避けるための意図的な敗戦だったとの疑いがもたれている。モラエイはその後の3位決定戦でリオデジャネイロオリンピックで優勝したロシアのハサン・ハルムルザエフを小外刈で破った直後に右膝を負傷したというアピールをして医務室に向かったため、今大会で2位になったムキが待つ表彰台に姿を現すことはなかった。この一連の事態にIJF会長であるマリウス・ビゼールはTwitter上で、選手がいかにして敗れたかを説明するのは容易なことではないので、注意深くこのケースを分析して、この問題の正しい解決方法を見出すように努めると述べた。その一方で、選手の望みと国の方針が齟齬を来たす場合、自身や家族の立場を考慮すればモラエイが国の方針に背くのはほとんど不可能だとの見解も示した[10]。グランプリ・フフホトでは決勝で藤原を背負投で破って優勝したが、グランプリ・ザグレブでは準決勝でカナダのアントワーヌ・ヴァロア=フォルティエに技ありで敗れて3位だった[1]。東京で開催される世界選手権に出場予定だったものの、イスラエルの選手と対戦する可能性が少なからずあることから、イスラエル選手との対戦を容認しないイラン政府の政策に従わざるを得ず出場しないとも報じられたが、結果として参加することになった。」

これだけ複雑な事情を抱えていることを考えると、イランのモラエイが、昨夜の準決勝は、きちんとベルギーのカッセと戦った上で負けたのか、それとも勝つとムキと対戦せざるを得ない。それは国が許さない。だから負けたのか。というようなことも、きちんと試合を見て確認したくなります。モラエイは三位決定戦にも負けたのも、ムキと同じ表彰台に乗ることが許されていないからだったのか、ということも、上のWikipediaでの解説によると、可能性としては否定できない。(しかし、さきほどの投稿で説明した通り、今現在、カッセ×モラエイも、三位決定戦も、テレビオンエアはないし、ネット中継は放映権でブロックされていて日本では見られない。見ることが出来た準々決勝までのモラエイは、絶好調で、圧倒的に強い。ベルギーのカッセも好調だったので、準決勝は本当に負けたのかもしれない。しかし、三位決定戦にまで負けるほど調子が悪かっただろうか。疑問は残る。)

スポーツだから、政治的対立を超えて、正々堂々と、という理想が通用しない国と国の対立がある。国が許さない。我を貫こうとすると家族にまで弾圧があるかもしれない。

イスラエルは、現在、非常に柔道が強く、各階級で世界ランク上位の選手が今回も出場している。
イランも、エジプトも柔道強豪国であり、もう一試合の準決勝はエジプトのアプデラールとムキの対戦だった。
中央アジア、ジョージア、アゼルバイジャンや、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスが今大会は非常に強く、この地域も複雑な対立を抱えている。
旧ユーゴ、内戦で複雑な対立関係にあった、ボスニア、コソボ、セルビアからも強豪がたくさん出ている。
ウクライナもロシアも昔から強豪だが、この二国も、実質、戦争といっていい紛争状態にある。
日韓の対立も今、ここ最近ないほど悪化している。

政治的対立を抱えた国選手同士が、それを超えて戦えるのがスポーツの良いところだか、政治的対立の強さがスポーツの中にまで侵入してきてしまうことも、あることなのだ。

「柔道、日本選手頑張れ、勝った、負けた」だけではない、国際政治の在り方と、選手の「参加して、勝ちたい気持ち」の相克というものを、きちんと解説し、伝えることも、昨夜の男子81キロ級は、しようと思えばできたのである。

フジテレビも、見る日本人も、スポーツを見るときは、そういうことを考えない、知ろうともしない、知りたくもない。しかし、スポーツで、普段はよく知らない国の名前に触れるときこそ、そういう国際政治の現在について学ぶ絶好の機会なのだけれどな。

丸山城四郎の対戦相手韓国のキムリーマンが、在日三世で、丸山とは中学の先輩後輩だ、国の対立などとは関係なく正々堂々とした戦いをしたのだ、ということも、解説しようと思えばできるのに、しない。

サッカーのアジアカップでのカタール×UAEの政治対立(UAEの応援団は入国もできなかったので、観客席は100%カタールの応援だったこと)なども、触れられることはなかった。

スポーツの国際大会というのは、できれば政治的対立からは自由な場であってほしいが、そうもいかない厳しい現実がある。NHK大河ドラマ「いだてん」で、まさに今、扱っているテーマでもある。そういうことをちらとでも考えさせるような、選手と国の紹介VTRだって、作ろうと思えば作れたはずである。

アホアホなフジテレビのスポーツ部門には、ちょっと難しすぎる要求だとは思うが。昨日の世界柔道男子には、そういう複雑な事情もあったことだけ、お伝えしておきます。
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