野村克也さんの、打者としての、身体動作上の凄さはどこにあったのかを研究する。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

※私は野球は完全な素人。小学校草野球以降、全くプレーしたこともない。他のスポーツ武道を通じて、身体動作について考察するのが好きな、ただのアマチュア。今回、野村さんがお亡くなりにあった後の、テレビなどでの取り上げられ方に不満があり、いろいろ考察してみた。

前半 Facebookへの、問題提起投稿

野村克也氏について、監督として、指導者として、とても優秀だった、という話がものすごくされるために、現役時代、名選手だったのも、そういう「頭脳派」だったから、というバイアスがかかって理解されてしまうのだけれど、それだけじゃないだろう、という話。(本人も、そういう言い方をするようなところがあるけれど)。

単純にアスリートとして、突出して、異常な能力があったんだと思う。そのことが、語られない、振り返って分析、評価されないのは、なんか、不満。

だって、本塁打、657本。歴代2位。長くやっていたとはいえ、同じく長くやっていた門田567本より100本近く多く、清原525本や落合510本より、150本前後多く打っているんだよ。王さんの868本が異常値だけれど、600本超えているのは、王さん野村さんだけ。

安打数で言うと、張本さんの3085本が異常値で、その次が野村さんの2901本、三位が王さんで2786本。王さんより100本以上多く打っている。

「頭脳派」というと、「劣っている肉体的能力を、頭脳で補う」というように、普通の人はイメージしがち。野村さん本人も、自分のことを、そういう風に語った。たしかに身長も170センチそこそこだったから、「でかい肉体派」ではなかった。

でもね、硬球を、木のバットで、ホームラン打つのって、異常な能力が、そもそも必要。ジャニーズ、亀梨君とか芸能人が、ホームランに挑戦、みたいな番組、一年以上かけてプロにみっちり鍛えてもらっても、スタンドまでボールは飛びませんでした。

力自慢で巨体の清原や門田よりもずっと多くのホームランを、野村さんが打ってきたことの理由が「頭脳」だけっていうのは、どうしても、納得できません。(当時は球場が狭かっただののくだらない理由は却下。同じく狭い球場で同時代の選手たちは戦ったのだから。門田のは野村と同じ南海球場が長い、落合の川崎、いずれも狭かったでしょう。)

「頭脳」でも「筋力」でもない、何か、身体操作上の「極意」を、野村さんは会得していたんではないのかなあ、というのが、僕が知りたいこと。

そういえば、王さんも、プロ野球選手の中では、カラダが大きくはない。かつて、名球会OB戦、みたいな試合で、50歳を過ぎた王さんが、軽々とホームランを打っていたのに対し、力自慢だった選手たちは、年を取るとホームランが打てなくなっていた。王さんの、あの一本足打法は、わかりやすく、武道の形のように、身体操作の合理性の完成度でホームランが出るのだなあ、というのを納得したことがある。

野村さんの異常な打撃成績の裏には、本人が「頭脳で」と語った以外の、何か、身体操作上の極意、特殊な何かが、あったと思うのだけれど、誰もそれを語らず、分析せず、のまま、野村さんが亡くなられてしまったのが、残念です。

野球ファンの人、元野球選手の人で、野村さんの、巷で語られる「頭脳」ではなく、身体操作上の、打撃の特徴、秘密を知っている人がいたら、ぜひ教えてください。



そして、YouTubeで、この動画を発見。

バッティング講座③~野村克也の真髄~
https://www.youtube.com/watch?v=YtYPy_E4ZDs&fbclid=IwAR0BVu_wBje47DrTQC1M8dEqfrRxZ6SraWFukIeaYSOfqjMr7r46gTa8L8g



後半 分析篇

野村克也さんの、バッターとしてのすごさはどこにあるのか。巷で一般に語られる「肉体的に恵まれていなかったので、頭脳で」というようなイメージは、間違いとは言わないが、不完全なのではないか。頭脳だけで打つには、打撃成績が突出してスゴすぎる。門田や清原や落合よりも100本以上も本塁打を打っているというのは、何か、もっと秘密があるに違いない。
という疑問を抱いて、Facebook友人に質問、かつYouTube動画を各種見ていて、分かったこと。

まず、従来は
①野村さんの打撃理論は「上から叩く」「最短距離でバットを出す」など、わりと古くからある、昭和の打撃理論と思われてきた。その理論を否定批判する形で、平成期の一流打者は打撃理論を語ってきた。批判される古典だった。
(とはいえ、野村さんの現役時代には、上から叩く、も、かなり画期的な理論だったのだと思う。)
②このため、YouTubeの素人さんコメントも、「野村の打撃フォームには別にみるべきところはない」などと言われてきた。

また、
③野村さん自身も、言い方としては、そう見られても仕方がない言い方をしてきた。

今回、ウッチャンに打撃指導する番組の動画と、過去の野村さんの打撃画像を見て分かったこと。

①野村さんは、自分の打撃フォームが「見た目」が不細工であることを自覚していた。おそらく、王さんの、完成されて個性的な一本足打法や、ヘルメットの飛ばし方まで研究したという、長嶋さんの「見た目も華麗で魅力的」なフォームに対し、コンプレックスを抱いていたようである。

②野村さんが63歳時点で、自分の打撃フォーム以外に「天才」として例を引くのは、若松、イチローであった。それらは後ろ足から前足への体重移動をしながら、「前でさばいて動きながらバットを振る」タイプの打撃フォームであった。

③野村さんの打撃フォームは、当然のことながら、現役時代のものも、63歳時点での素振りも、共通のものであった。

④川上哲治さんの、「構えたら不動」「呼吸法の使い方」「呼吸法による重心を鎮める」「親指で立ち、親指で体重移動する」など、相撲や武道などに通じるいくつかの「意識すること」がある。

⑤捉えるポイントはヘソの前にバットを構え(体と垂直にバットを出し)、腰を切ったところ。

⑥腰を切るときは、カラダの左半身(ピッチャーに近い側)の力は抜いて、右半身だけに力を入れると、するどく腰が切れる。

以上のことと、映像を見て、野村さんの打撃の特徴(野村さんか言語化していないことも含め)を分析考察してみる。

打撃の際の軸については、「後ろ足から前足に重心を移す」ことに異論のある人はいないが、その際、前足を「ストッパー」として使って、回転軸を後ろ脚よりに残すように意識する(実際はその中間に重心はある)タイプのフォームと、踏み込んだ前足側の上に回転軸を作る打撃フォームがある。前者は、松井や清原など、体格の大きなパワーヒッターに多く、後者はイチローや若松などに多い。後者はいわゆる「走りながら打つ」打法である。

野村さんの打法は、重心移動に関しては、若松・イチロータイプである。しかし、その移動した瞬間に腰を切る意識が強いため、前足側軸上で強いタメが一瞬生まれる。これが、若松やイチローよりも、ホームランを量産した理由だと思われる。

その状態で強く腰を切るのは、身体動作的にきわめて難易度が高く、カラダを右半身左半身に分けて、それぞれに独立して力のヌキとイレを行うという高度な身体動作である。野村さんの「達人性」「固有性」のひとつは、この点にある。

もうひとつの固有性は、「腰の切り」の瞬間に「上から叩く」意識が加わることで、一種、上体の強いうねり動作が生まれる点である。
63歳時点での素振り一回目、やりそこねた時に、インパクト瞬間に、上体が激しく「くの字」に曲がった。あそこが、野村スウィングの特徴が、失敗したがゆえに強く表れた瞬間だと思う。体格に恵まれていないのに、異常なほど(門田や清原といった体格体力に恵まれたバッターより)ホームランを打てたのは、この「体重移動」「腰の切り」に加え、「上体のうねり」が加わったためではないか。インパクトからフォロースルーの動作が、軟式テニスのフォアハンドのように見えるのは。この特徴的動作による。一般には、このような不安定さをスウィング動作に加えることは、忌避される動作だと思うが、あえて、それを活かした。
「当たるまでが大事。当たった後は崩していい。、当たった後はケセラセラ」とウッチャンに教えている通り、体重移動をして前足に軸を作って腰を切り、上からかぶせた後は、美しい姿勢は保持できないことが自分でも分かっていたのだと思う。

誰よりも深く打撃理論を突き詰めたのに、その見た目が「王、長嶋ほど美しくない」ということについてコンプレックスを抱いていたこと、自分の打撃理論の先に、若松、そしてイチローという天才が生まれたことを、実は誇りに思っていたのではないか。そんなことも垣間見えて面白かった。

さらにいえば、体格にすぐれない打者が、イチローや若松のような「安打数・打率型」にいくのではなく、ホームランバッターになるための「奥義」のようなものを、開発・会得していた。その点については、野球の専門家のみなさんの分析・意見を期待しして、素人の分析、おしまい。
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