『ゲンロン0 観光客の哲学』読んだ。これはちょっとすごい。 [文学中年的、考えすぎ的、]

『ゲンロン0 観光客の哲学』 単行本 – 2017/4/8
東 浩紀 (著)
Amazon 内容紹介
「否定神学的マルチチュードから郵便的マルチチュードへ――。
ナショナリズムが猛威を振るい、グローバリズムが世界を覆う時代、新しい政治思想の足がかりはどこにあるのか。
ルソー、ローティ、ネグリ、ドストエフスキー、ネットワーク理論を自在に横断し、ヘーゲルのパラダイムを乗り越える。
著者20年の集大成、東思想の新展開を告げる渾身の書き下ろし新著。」
 ここから僕の感想。いやー、これはすごい。①東氏のこれまでの仕事・著作とのつながりを解説しながら、②近現代思想史・総おさらいをしてくれながら、③現在と未来を考える、まったく新しい視点を提案してくれる本です。特に②の近現代思想のおさらいのわかりやすさが凄まじい。これまで30年間くらい、なんだかよくわからなかいままごまかしてきた、哲学思想まわりのもやもやがすっきり晴れる。(ルソーはもちろん一般意志2.0の流れで触れるとして、)カント、ヘーゲルからカールシュミット、ハンナアーレントという西欧19~20世紀前半の政治哲学の流れから、ノージック、ローティ、ロールズあたりの「リバタリアンとコミュニタリアン」という米国系最新思想の流れから、ドゥルーズからネグリハートという小難しい系現代思想まで、おそらく、基礎知識なしでもすらすらわかるくらい明晰に平明に解説してくれます。
 私の長男は東氏が早稲田の文化構想学部の先生だったときに教えを受け、その後、ゲンロンの「批評再生塾」というところで半年ほど修行をしたのですが、長男と議論をして、ちょっとやりこめるたびに「でも東先生の方が父ちゃんより頭がいい」という超あたりまえの謎の反撃をしてくるのですが、そりゃそうだ。浅田彰氏や柄谷行人氏がびっくりして認めてかわいがったのも納得。すさまじい頭の良さ。初めの頃の思想関係の論文や本は読んでいなかったので、(小説と、最近の数冊しか読んでいなかった)、ここまでとは。「アタマがいい人は、難しいことを、誰にでもわかるように説明できる」とは、東氏のことを言うのだな。ヘーゲルってこんなこと言っていたんだ。ヘーゲルについて、なんか、はじめて腑に落ちた。カールシュミットについても、ずっとすごく気になって、読み散らかしてみたものの、いまひとつ分からなかったことが、すごくクリアに解説されています。
 第一部が「観光客の哲学」。この前、読んだ、水野和夫氏の「閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』と同じ、グローバリズムとナショナリズム(リバタリアニズムとコミュニタリズム)に覆い尽くされる、帝国とテロの時代に対する解決の糸口として、「観光客」「誤配」というキーワードで考察を重ねます。端的に言うと、現代の政治・哲学は「他者」をどう扱うか、どう考えるかということなのだが、その他者を「移民」とか「難民」としてではなく、「観光客」としての視線、体験をもって考える、という、なんというか、非常に面白いアプローチです。
 第二部は「家族の哲学(序章)」。私が東氏にすごく親近感を覚えたのが、震災・原発事故直後、氏も私も、家族を連れて(氏は静岡まで、私は京都まで)、東京を離れたのですが、(そのことで批判もされたのですが)、このことと、この章で書かれていることは、表面的なこととしてではなく、関係あると思う。ここでのドストエフスキー論も、ものすごく面白いです。
それから、偶然なのですが、この本を読む直前に西加奈子さんの『アイ』を読んだのですが、この小説と、東氏のこの哲学書、ほとんどまるまんま、相似形のように同じテーマに、同じ側から向き合っていると思う。併せて読むこ、とお勧めです。
 なんというか、私の読書友達は、みんな同年代のおじさんばかりなわけですが、もちろん、おじさん読書友達にも、本当におすすめなのですが。こういう本は、東氏と同年代や、それより若い人たちにこそ読んで欲しい。
 
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ゲンロン0 観光客の哲学
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