2017世界柔道 後半3日間 観戦記 [スポーツ理論・スポーツ批評]

世界柔道 フェイスブック投稿をまとめて転載。

■5日目 女子
新井千鶴が金メダル。素晴らしい内容だった。内容も良かったけど、とにかく勝って良かった。この選手、見ていてつらくなるくらい「気持ちが前に出る、ものすごく勝気でまっすぐ」「負けると悔しがる、自分を責める人なのだ。技術も素晴らしいのだが、それを上回る「気持ち」の人なのだ。
 リオで、個人的には全種目全競技中いちばん感動した田知本遥の金メダル。その田知本に国内最終選考負けてリオに出られないことが決まったときの新井。選ばれなかった選手は誰も皆、全員つらい思いをしているのだと思うが、新井はとにかく「気持ち」の人であり、大きな目から、その感情がテレビ画面を通じて強烈に伝わってしまうので、見ていてとてもつらかった。
 彼女に関しては、内容の感想はなし。とにかく勝てて良かった。おめでとう。
https://www.nikkansports.com/sports/news/1881503.html

78キロ以下級 梅木は準決勝までは完ぺきな勝ち上がり。決勝も本戦は互角でゴールデンスコアに入った瞬間の組み際小内刈りを喰って悔しい銀メダル。本戦からゴールデンスコアでギアを一気に上げる選手がいるので、そこでの集中力を欠いたのが悔やまれる。

■6日目 男子
男子重量級は、100キロ級でウルフ・アロンが初優勝。彼は、リオ五輪90キロ級金メダルのベイカー茉秋の、「春日柔道クラブ(講道館本部柔道クラブ)」⇒東海大浦安高校⇒東海大学の一学年後輩。そして、アメリカ人とのハーフという点も共通。東海大浦安ではベイカー3年、ウルフ2年の時に団体三冠を達成。柔道内容としても、ひとつの技にこだわらず、状況に応じた戦い方ができるという「東海大浦安スタイル」である。組手の上手さ強さも共通点。こうした組手の強さと柔軟な柔道も、90、100キロ級という、日本人が力負け(筋力負け)しやすい中で、彼ら二人は、力でも対抗できるというアドバンテージを持っている。
 一方のこの日、「なにもできずに負けた」100キロ級 羽賀龍之介と100キロ超級 王子谷も東海大出身だが、東海大相模高校出身。特に羽賀龍之介は、2015世界選手権、圧倒的な内股で世界一⇒2016リオでは、内股にこだわるも、組手、内股を研究警戒されて内股不発で銅メダル、周囲からもメディアからも、「世界チャンピォンになり研究される立場になったのに、内股にこだわりすぎてそれを警戒されたときの対策が不足」と叩かれたのに、まったく同じ負け方をした。おそらく首脳陣の評価でもウルフとの差が大きく開いたものと思われる。今後、大きな大会の代表には選びにくい雰囲気になった。
 王子谷も、国内では日本選手権に二回勝っている通り、日本人相手には思い切った大外刈りを出していけるが、それを外国人に警戒されたときに手がなかった。王子谷は本来は非常に器用な選手で、背負い、袖釣りなどの担ぎ技もできる。この日も終盤、背負いを一回出してみたが、「追い詰められて苦し紛れ」というものになり、打開できなかった。
 東海大学の上水監督は、試合時間と状況を細かく設定して、その場で戦い方を切り替える練習を重視するなど、「何があっても勝てる」柔道を指導してきた。ベイカーやウルフは、まさにそうした戦い方ができることで、世界の頂点に上り詰めた。一方の、羽賀、王子谷。特に羽賀は、こうした柔道ができないことで負けた。羽賀は高校時代、内股だけで金鷲旗で「20人抜き」という記録を作った「内股柔道」の人である。シニアになってから、それ以外のいろいろな対策をしてきても、いざ本番の試合となるとカラダに染み込んだ「内股だけ柔道」になってしまう、というのがリオと今回、露わになってしまった。
 オリンピックまで3年ある今回の世界選手権で優勝した若手たちは、皆、世界中からマークされ、研究される。そして「なかなか組めなくなる」「やっと組むと、やっと組めたから大切にしようと技の出が遅くなる」「そこを突かれて、相手に先に技を出される」「先に指導をもらってしまう」「ますます焦って不完全な組手で技を出してしまう」「返されて相手にポイントを取られる」というパターンで不調に陥る。今回不調の元世界王者、有力選手の共通パターンである。
 この不調と危機を乗り越えて世界一に返り咲いた高藤の偉大さがわかる。阿部一二三もウルフも、これから、必ずこの試練を迎える。東京五輪での金は、それを超えた先にある。(だから実は、五輪には、まだ実績は出していないが急激に力をつれて台頭した若手を選んだ方が金メダルを取る可能性が高いのだ。実際には代表選考プロセスと仕組みで取りづらい選択肢だが)
http://www.asahi.com/articles/ASK9255P8K92UTQP022.html

6日目 女子
朝比奈沙羅選手は、高校時代は、まだ自分の体重に対して下半身が不安定で怪我をしないか見ていてはらはらする感じだったし、お肉の中に顔のパーツが埋まっていて表情もよくわからない感じだったのですが、大学生になって、筋力も付き、バランスもよくなり動けるし多彩な技が出るようになった。かつ、表情もはっきりしてきて、強い意志や鋭い頭脳などが、表情からもはっきり読み取れるようになった。準決勝までの戦いは120点の出来でした。決勝は、本戦は支え釣り込み足がよく効いて優位に試合を進めていた。しかし、国内の試合ではほとんどないことの、相手の方が体格がでかい上に、安定していて大外や払い腰をかけると返されそうだ、という不安から、こうした大技が出せずにいたために先に指導をもらい、その差で負けてしまいました。しかし、これは本当に「良い経験」になると思います。頭が非常にはっきりした選手だからです。確実に技術と戦術で克服できる課題だったので、五輪までのあと二回の世界選手権で、世界一になれると思います。
 彼女の出身高校、渋谷教育学園渋谷は、東大に(一学年200人中)30人程度が東大に進学する、都内屈指、共学私立ではNO1の進学校です。渋谷のど真ん中でグラウンドが無いために、柔道場だけ折り畳み式超本格的道場を作り、運動部では柔道部だけを特別に強化しています。(五輪でふたつの銅メダルを持つ中村美里が先輩)。おそらくは柔道の推薦ではいったのだと思いますが、全国トップレベルの進学校同級生の中で勉強もがんばっていたようで、父親が医師で大学の先生、母親が歯科医師ということで、将来(柔道引退後でしょうか)は医学部に進学したいと言っているようです。
 東京五輪に向けては、現在高校二年生に、先日金鷲旗決勝で五人抜きをした素根輝という怪物がおり、おそらく東京の代表選考は素根と朝比奈が最有力、となると思います。今後の女子超級は、本当に楽しみです。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170903/k10011123991000.html

■7日目 団体戦
団体戦のポイントいくつか。
①個人戦では実現しなかった、橋本壮市対アンチャンリンの対決が準決勝韓国戦で実現。本戦は互角、延長へ。アンが背負いつぶれて、寝姿勢と思い伏せたところを橋本がめくり返しての一本。つまらん。ルール上はアンの片膝が畳についていなかったので、立ち姿勢が継続しており、そこをひっくり返して背中を畳につけたから橋本の一本なのだが、柔道の「技」で投げたのではない。ラグビーのラックで相手をめくり上げるのと同じことで、ラグビー選手が普通にしている動作。柔道的な動きでは全くない。せっかくの世界ランク1位vs3位、全階級を通じても屈指の「達人」同士の試合が、あんな決着でがっかりでした。誰が悪いわけでもなくルールが悪い。
②90キロ級 長澤健大、活躍。90キロ級は五輪金メダリストのベイカー茉秋が怪我のため長期離脱。そのほかの選手ではメダルは狙えないとの判断で個人戦の派遣が見送られた。とはいえこの長澤、二年前は東海大の主将を務め、直前の世界ランク8位で、メダルの可能性がなかったわけではない。団体戦では、4番目男子は「90キロ以下」であればよく、ここは長澤と81キロ級永瀬の二人でいく予定が、永瀬の怪我で全試合長澤でいくこととなった。長澤としては、むしろ、次世界で戦えることを首脳陣にアピールするまたとないチャンス。初戦ウクライナ戦では負けたものの、そのあとの全試合、しぶとく勝利して優勝に貢献。実はこの長澤、小学校時代、相模原市の相武館吉田道場(中村美里らを輩出、小学校中学校の日本一に度々なっている名門道場)の出身で、我が家の三男と同学年。同市内の弱小スポーツ少年団出身の我が家三男と、市内の大会で何度が対戦があった。(長澤の全勝でした。)当時から柔道の中味はほとんど変わっていない。あまり切れの無い体落としと内股で相手をつぶして、全国最強の相武館の寝技で仕留めるという、地味だがしぶとい柔道。組手のうまさ厳しさも光る。という柔道をこの世界選手権でもそのまま実行した。地味で勝負が遅い、と思われたか、それでも勝ち抜くしぶとさががあると評価されたか。ベイカー不在の間の国際大会派遣で実績を残せば、今後、東京五輪代表争いに絡めるかもしれない。
③銀メダリスト 芳田司と朝比奈沙羅は強かった。女子では金メダルを取った新井千鶴は、個人戦ですべてを出し切ったためかやや不調だったのに対し、悔しい決勝戦負けをした芳田と朝比奈の二人は、その悔しさをぶつけるような気迫溢れる完璧な内容。素晴らしい柔道でした。個人的に団体戦MVPを選ぶなら、朝比奈です。
④王子谷、これをきっかけに復調なるか。原沢、王子谷ともまったく最低の内容で個人戦敗退。その汚名返上の機会となる団体戦。二戦目ドイツ戦 原沢は個人戦同様のふがいない内容。初戦の王子谷も切れの無い動きながら、どちらかと言えば王子谷という選択で、準決勝韓国戦は王子谷が選択されたが、ここで素晴らしい支え釣り込み足一発で一本。決勝は個人戦銅メダリスト巨漢シウバ相手に、本戦は「技は出ないがとにかく前に出る」で気迫を見せ、ゴールデンスコア最後の最後に、やっと大外刈を出して一本。国内ではほぼ無い、自分より身長体重共に大きい巨漢に、得意技の大外刈り(返される危険が最も大きい技)を出す勇気があるか、を問われた今大会。それを出す勇気が出ずに負けた個人戦の課題を、最後の最後に克服した。技の出が遅く、ゴールデンスコアで相手がへとへとになってやっと出せたというのは、首脳陣からするとまだ合格点ではないと思うが、それでも大外刈一本で大会を終えたことの意味は大きかった。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170904/k10011125651000.html



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