ジェイコブ・コリア―、プリンス、玉置浩二、秦基博 第一弾、ピッチの正確さ、ハーモニー、調律(純正律、平均律)について。 [音楽]

 いつものように新聞の切り抜きをしていて、朝日新聞10/23の夕刊文化欄でジェイコブ・コリア―の来日ブルーノートでのライブ評(柳樂光隆氏)を読んだ。彼については今までノーマークだったのだが、(NHKあさイチ出演も知らなかった)、文中に「ちなみにボーカリストとしての実力は圧倒的で、特に生で見るとあまりの歌の上手さや声量に度肝を抜かれるほど。」とあったのが非常に気になった。これは私が玉置浩二さんのライブを聞いた時の感想そのままではないか。音楽評論家ともあろう人、数知らぬライブを職業として見ている人がこんなことを書くとはただ事ならないな。しかも見出しが「天才中の天才」。こんな形容詞は、私の大好きな大好きなプリンスにしかふさわしくない形容詞ではないか。23歳なんでしょ。聞いてみなければ、ということでyoutubeを見てみた。
 その後二日間、ずっとずっと、彼の演奏やインタビューや、とにかくyoutubeで見られる限り、見て、聴いて、CDも速攻で「In my room」と来日記念盤「Pure Imagination」買って。もう、どんな言葉も出てこないくらいびっくりして、しかもとんでもなく幸せな気持ちになって、フェイスブックにも興奮した投稿を連投したり、妻にyoutubeを見せたり(そうしたら、
「朝イチで見たよ。パパ、遅いよ、この人、プリンスが死んじゃったかわりに、21世紀版として神様が地上に送って復活させた人だと思うよ」と私と同じ感想を言っていた。さすが、わが妻である。)
 おそらく音楽関係者でない普通の人にとっては「一人多重演奏の、どんな楽器も弾けちゃうすごい人」という、ある種の曲芸的にすごい人、という意味での天才という捉えられ方をされてしまうのではないかと思うのだが、音楽を真剣に考えてきた人にとっては、そんな生易しいことではない、ケタ外れの超進化型のまさに天才中の天才なのだ、ということをちょこっと、また長くなると思うが、書いてみたくなった。
 大学自体の友人で、英語ネイティブで、しかも、大学時代はボーカリストとして活躍していた女性が、「Music Theory Interview: Jacob Collier (Part 1)」というyoutube動画、(ハーバードの大学生音楽家=ジェイコブの音楽を採譜したりしている人=に、彼独自の音楽理論を説明している動画)にリアクションしてくれた。彼女も私もプリンスの大ファンであったという共通点もある。一度、プリンスのライブに一緒に行ったこともあったな、そういえば。
 リンクはこちら。https://youtu.be/DnBr070vcNE
 僕は英語があんまり分からないので、ここらに興味があると言ったら、彼女がその部分をすぐに訳して返信してくれたのだが、(通訳士の資格も持っているし、日本語の物書きとしてもプロ。ただでさらりん、と訳してくれるなんて、本当にありがとう。)以下はその彼女の訳ではなく、私の意訳文章だからね。プロのコピーライターの文章を無断転載したら失礼だから。
 その部分と言うのは、「たとえばこの曲でGからEまで下降して移動するときに、短三度だから、半音で3つ移動するとGからEまでついてしまうのだけれど、そこを四つでおりるとこうなる。(と歌う。)。ここを5つでおりるとこうなる。(と歌う。)それは半音の半音ではなくて、半音3つ分の音程を四等分するとこうなって、五等分するとこうなるでしょ、楽譜には書けないけどね。」みたいなことを言っているわけ。言っているだけじゃなくて、歌うわけ。すごいでしょ。すごくない?もうすごいすごい。
 そしてこ、そのインタビューの第二部Music Theory Interview: Jacob Collier (Part 2)では、純正律のハーモニーの響きの美しさ、でもルートを移すと、ピアノの上ではどこで何セント(音程の微細な単位)ずれているか。それを次々補正して移動していくアイデアを考えたのだが、というようなことを、延々と、楽しげに語り続けている。Cで調律した場合B♭のコードに移るとそのコードの構成音が何セント(調律するとき音程の単位)でずれるから、こんな響きになるから、そのたびにルートの周波数をどう動かすと、みたいなことを延々と話している。(英語力不足で結論はよくわからないのだが。)

今日書きたいことの中心はこの部分のこと。ハーモニーをひとつの音に対して純正律的に正しく5度とか3度とかでつけると(それは本当に、ぎゅっと抱きしめるみたいに美しい、とジェイコブ君はジェスチャーつきで表現する.)、それはピアノの音程とは微妙にズレる、ということ。そして、歌で、アカペラで完璧なハーモニー、本当に美しいと感じるハーモニーをつけるということは、純正律的な音程感があるひとじゃないとつけられない、ということ。平均律で調律されているすべての楽器は、ハーモニーで、ちょっとだけのズレを我慢しているということなんだよね。
 タイトルに上げた、「ジェイコブコリア―、プリンス、玉置浩二、秦基博」というのは、僕がそういう意味で、「完璧なハーモニーをつけられる歌手」つまり、安心してハモリを聞いていられる歌手。外人洋楽だといろいろ他にもいるけれど、今の日本人歌手だと、僕とってはこの2人しかいない、と言ってもいいくらい。コーラスグループやバンドだときちんとハーモニーとれるけれど、いろいろな歌手と即興コラボでハモリをつけて、だれとやっても常に完璧に美しくハモれるのって、玉置さんと秦さんしかいないと思う。
 僕は自分の音程意識が「すごく正確だ」という自慢をしたいのではなく、美しいハーモニーについて、いつもいつもなんだか不安で不満で、違和感があって、という状態でいた、ということ。(正しく自分で歌えるかどうかはともかくとして、美しくないハーモニーにすごく敏感なのは事実。昔「ハモネプ」っていう、素人アカペラのコンテスト番組があったでしょ。あれが死ぬほど嫌いだった。優勝者グループなどごく少数は美しいハーモニーを響かせていたけれど、それ以外は、もう、気持ち悪くて、もう本当に頭が壊れそうになるから、家族がその番組見ようとするたびに、やめろー、と激怒していた。)
 そんな僕にとって、何の不安もなく、誰と歌っても美しいハーモニーを作ってくれるのは、玉置さんと秦くんなんだよなあ、ということ。そして、ジェイコブ・コリア―という音程、調律とハーモニーの天才に、ついに出会って、天国にいるような幸せな気分になった、ということを書いておこうと思った、ということでした。
 (歌い手、ギター弾きとしての僕の音程感は、ちょっとシャープ側にずれているかなと思う。決定的な音痴ではないからカラオケ音程判定では正解範囲なんだけど。ギターで言うと、一弦を、チューニングマシーンの正解よりも、ちよっとだけシャープめにチューニングしたくなる。自分の耳だけでチューングして、気持ちよく鳴っているなと思うとき、1弦がちょい高い。)

 ピアノだけじゃなく、マルチな楽器を弾いて、しかも歌でハーモニーをつけるということに本気で取り組む人は、わりと早くこの「純正律・平均律」問題に気が付くと思う。ジェイコブコリア―とプリンスはピアノ、鍵盤楽器から音楽を始めた人だと思うけれど、(プリンスのお父さんはジャズピアニストで、コリア―のお母さんは自宅の部屋で音楽を(おそらくはピアノを)教えている人だったから、初めに触った楽器はピアノだと思う。でも、すぐに他の楽器も弾くようになっている。玉置浩二と秦基博は、ギターやベースは弾けるけれど鍵盤楽器はほとんど弾けない。玉置浩二は民謡の先生だったおばちゃんの背中で聞いた音楽が音楽のスタートだと思うから、楽器が無くて、人間の声から音楽をスタートしていると思う。
 僕の場合は幼稚園のころ2年間くらいピアノを習って、小学校の間バイオリンを習って、その後、ギターを弾くようになったのだけれど、このバイオリンを習ったのいうのがおそらくこの「調律へのこだわり」のもとになっていると思う。フレットのない、おさえる位置で音程が無限に変わってしまう楽器を習うと、正しい音と言うのは、開放弦の音程に対して、そしてその曲の調に対して自分で作るしかないわけで、それは人間の声でも一緒なのだけれど、バイオリンを弾いていて感じる正しいと思う音程が、ピアノの音程とは微妙にずれている感じ、という違和感がずっとあった。
 そしてギターというのは、ピアノ以上にチューニング的には精度の低い楽器だと思うので、いつもいつもチューニングがなんとなく不安不満、という状態で何十年も過ごしてきた。ギターのチューニングマシンを使うようになったのはここ1年くらいなのだけれど、それでもなんかしっくりこないで、いつもちょっとずつ調整しながらギターを弾いている。
 今はどうかわからないけれど、女の子(うちの姉と妹もそうだったけれど)はたいていピアノを習っていて、音楽が得意な女の子はみんなピアノで音楽を勉強してきたわけだけれど、ピアノの音程だけで音楽を身に着けた人の「音程感」というのに、どうしてもなじめなかったんだよね。特にハーモニーに。
 
 このジェイコブ・コリア―のyoutube映像には、IharmUという、シリーズがある。全世界の人が投稿してくれる、「ワンフレーズ、何か自由に歌った動画」(既存の曲もあれば、その人が即興で歌ったものもある。)に、ジェイコブ君が多重ハーモニーや楽器の伴奏をつける、というもの。セミプロっぽい腕自慢が、技術の限りのフェイクを入れまくったものから、素朴なおじさいちゃんや子供の歌まで、中にはハービーハンコックが、「今の気分はこんなメロディーだぜ」と、ピアノでぽろぽろと、わざとハーモニーつけにくそうなワンフレーズを-、なんていうのもある。ハーモニーをつける前の元の投稿がまず流れて、その直後にハーモニーつけたものが流れるのだけれど、もう驚きと感動でびっくりする。元の歌について、リズムはちょっと補正してあるのかな、というのもあるのだけれど、音程の補正は全然いれていないように聞こえる。唐突に終わる、最後に「いぇー」みたいなことを言う、そういうものまでも音楽の一部にしてしまう。僕のような素人が聞くと、この鼻歌みたいなのは、どういうビートの、どういう音楽をイメージしているのか全然わからない、というものも結構あるのだけれど、ジェイコブ君がハーモニーをつけると、そこに本来あるべき、歌っている人がおそらくイメージしていたリズムとハーモニー、音楽の立体的な全体像が突然くっきりと立ち現われてくる。
前に、玉置さんや秦くんは、相手が音程外しがちな相手でも、ものすごくきれいにハーモニーをつける能力がある特殊能力者だと書いたことがあるけれど、ジェイコブ君も、その特殊能力を異常なレベルで持ち合わせてます。ぜひ、聞いてみて。
Jacob Collier's #IHarmU Vol. 1
https://youtu.be/SM2nhLSeJXg
Jacob Collier's #IHarmU Vol. 2
https://youtu.be/nzHF225ibak
Jacob Collier's #IHarmU Vol. 3
https://youtu.be/jXQSKdmCsIo
nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。