ガルシア・マルケス『百年の孤独』 我が家のウルスラのリフォーム計画とともに発見される。 [文学中年的、考えすぎ的、]

ガルシア・マルケス『百年の孤独』、今、売っている本より、装丁がかっこいいでしょう。33995359_1802130029852314_646007671668867072_n.jpg妻が、近々、家をリフォームをする計画をしていて、「本棚を、整理せよ」指令が出て、一生懸命片づけをしていたら、2004年に買ったこの本を発見して、読みました。
 この前のオーウェルの『1984』もそうだったけれど、ものすごく有名な小説で、買ったはいいものの、読みにくくて、ちょっとだけ読んでそのまんま未読、(なのになんとなく読んだふり)という本がものすごくたくさんあって、そういう本を、ちゃんと読もうモードに今、入っています。この本、「死ぬまでに読むべき小説ベスト100」とか、「世界のベスト小説ランキング」で、だれが選んでもたいてい、間違いなくトップ10にはいっている、トップ3入りもけっこうある、ものすごく有名な小説なのですが、買った当時は、なんだか読みづらかった。しかし、今、読んで、よかった。今、人生のこの時期、この年齢になってから読んだから、本当に面白かった。もう死ぬかと思うくらい面白かった。
 物書き修行をしている長男が、何年か前に借りていって、読み終わって返してくれる時に、「父ちゃん、絶対、読むべき。ウルスラウルスラ」と謎の呪文を唱えていたのも納得いった。コロンビアの奥地、19世紀前半から20世紀前半にまたがる100年以上にわたって、ある架空の村を築いた一族の、7代にわたる歴史が、現実と不思議、政治と愛と性と、錬金術と文学と、もうあらゆる要素が混然一体となって、いつまでもその中に浸って読み続けたくなる、見事な文体でつづられていきます。
 普通、文学論的には、この作品はマジックリアリズム(現実にあるものと、現実ではないものが融合して描かれる芸術形態)の、文学における代表作、と言われるのだけれど。今、読んで、本当によかったと思うのは・・・。ウルスラっていうのは、その一族の、いちばんはじめのお母さん、一族の始祖、太母グレートマザーのような人なんだけれど、読んでいると、どうしても妻に似ている、妻を思い浮かべざるを得ない。長男が「ウルスラウルスラ」と呪文を唱えていたのも、「母ちゃんだあ母ちゃんだあ」と思って読んだからだと思うのだよな。で、マジックリアリズムっていうのは現実に存在しない、死者が家の中をうろうろ普通にしていたり、その女の人が歩き回ると、やたらと子供が生まれたり家畜が増えたり木々が茂ったりという、そんな巫女とか地母神にしか起こせないようなことがどんどん普通に起きてしまうのだけれど、実は、うちの妻というのは、存在自体がマジックリアリズムなのだよね、おそろしい話だけれど。具体的に書くと私や妻の頭がおかしいと思われそうなので、細かくは書かないけれど。「現実と非現実の共存」が、我が家ではある種の常態なので、この作品の世界観というのは、私や長男にとっては、ものすごく「あ、これ、知ってる」という感覚があったのですよ。
 そして、この一族の男性の、繰り返し何代にもわたり同じ名前で現れる男の子供たち、行動的で破天荒なアルカディオ、内向的で、政治的や文学やさまざま活動しても内向的で繊細なアウレリャノ、そうした登場人物に、私自身や、私の男子たちを重ねてしまう。家族の物語というのは、サリンジャーのグラース家サーガ連作でもそうだけれど、どうしても他人事とは思えないのだよなあ。たとえ、南米の、想像もつかないほど異なる文化伝統の中を生きている一族家族の物語だとしても。
 ウルスラ以外の、多くの女性たちも、それぞれ際立って個性的で、「こんな極端な人など普通はいない」と思うと同時に「女性の本質のある部分が極端化した存在だからこそ、誰かにすごく似ている」と思わせる、魅力的な人物だらけ。
 この一族が暮らす屋敷は、100年の歴史の中で、何度も、リフォームを施されながら、家族の歴史の舞台になっていく。我が家のウルスラが企てたリフォームを機会に、この本が発見されたのも、何かの因縁かもしれないなあ、と思いながら、ここ一週間ほど、この傑作を楽しんだのでした。

 リフォーム計画を立てていると、妻がリフォーム屋さんに「我が家の大黒柱だけは、そのまま残してくださいね。これは夫が、ときどきこの柱に抱き着いて、家と一体化しては心を癒す柱なので。」大黒柱.jpgとお願いしていました。これもね、この本を読むと、ウルスラの夫、初代ホセ・アルカディオが、晩年、自らの意志で、庭の木と一体化する人になっていくというのと、ものすごく似ているのですよ。本当にね、家族と、家と、そういうものの歴史ということの蓄積というものをある程度実感できるこの年齢になってから読んだのが、本当によかったなあ。大江健三郎の後期作品群も、あきらかにこの小説に触発されたものだったんだ、と改めて納得した次第。それくらい、影響力というか伝染力というか、力の強い作品でした。
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