井上×ドネア 見た後すぐの感想、分析。井上尚弥の大ファンだけど、勝ったとしても判定2-1に割れていて妥当。ドローでも不思議はない。フィリピンで試合していたら、ドネアの勝ちという判定が出ていた。それくらいドネアがすごかった。それでも勝った井上がすごかった。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

いやー、ドネア強かったなあ。
第1ラウンド、始まった瞬間から、「なんじゃ、このフットワーク」というくらい、ぜんぜんぴょこぴょこしないで、滑るように必要な距離だけ素速く前後左右に動く。超達人の動き。派手なフットワークではないけれど、おそるべき技。ディフェンスの動作もそう。足と上半身の小さな動きで、かわす、パンチを殺して受ける。そしてなによりパンチの打ち方。手のある位置から、相手の自然な予測から、ちょっとだけ間を外して、すっとパンチが出てくる。それは、もちろんはじめのうちは井上も警戒していて喰わないけれど、少しでも油断すると、早いというより、間を外して、パンチを当てられてしまう、という、いやーな感覚を、井上は持ったと思う。ジャブ、ストレートだけではなく、アッパーも突然、飛んでくる。スポーツ的動作というより、武道の達人の動きである。

第2ラウンド立ち上がり、何発か井上のパンチがクリーンヒットではないが、ドネアのガードを外して顔面に当たると、ドネアの顔色が変わる。井上がモンスターと言われるパンチ力が、体感されて、ドネアも警戒の色を強める。パンチの決めの強さ、一発の威力は、井上が勝っていた。しかし、クリーンヒットしなければ、それも意味をなさない。ドネアは滑らかなフットワークから前に出て、鋭いジャブ、ワンツーを繰りだす。ロープにつまり気味になるのは井上の方。それでもまだ両者、調子を見ているかと思いきや、ラウンド中盤、井上のいいパンチが軽く一発ドネアを捉える。よいボクサーは、打たれたら、前に出る。打たれたら、手を出す。細かなポイントの積み重ねが勝負を分けるある以上、「あ、打たれたな」という印象を残してラウンドを終わらせない。なので、ドネアは圧力を強め、前に出る。そして井上をロープ際まで追い詰めてのパンチの応酬、すこしかがんだ姿勢の低い位置から、左のショートフックを、全く引きの動作なく、低い位置にあった腕を、高い位置に上げ、(つまり、引きの動作は全く入っていない)そこから強烈なショートフックを、井上の右半分の顔面、眼を中心にしたど真ん中に打ちんだ。(中国拳法や空手の寸勁、ゼロインチパンチの打ち方である。やっぱりドネア、達人としか言いようがない。)
井上の眉の下がばっくり切れたのはこのパンチ。頬骨から目からそのあたり一帯に強烈なダメージを食ったと思う。出血に目が行くが、頬骨、眼球、そのあたりに強烈にパンチを食っている。その後の試合を通しての井上の右目の目つきが、眼底骨折をしちゃって、眼がうまく動かなくなった人の眼の状態のように見えて、僕は出血より、そっちが心配でずっと見ていた。(みんな、顔面の目の周り、思いっきりぶん殴られたこと、ない人の方が多いでしょう。目の軸がね、ズレちゃうの。そのあとしばらくずっと、ものがふたつに見えて、全然、試合どころじゃなくなるのですよ。おそらく、井上はその状態になっていた。)

 打たれた直後はよくわからなかったが、ラウンド間にコーナーに戻ると、激しい出血で顔右半分は血だらけ。アドレナリンを傷口に押し当て、ワセリンを塗りこんで止血するが、もし同じ場所を打たれたら、すぐに大出血になる。

 次のラウンドからしばらく、井上は、右グローブを高く上げて、傷をしっかり覆うようにディフェンスしながら、慎重に戦った。傷をもう一度殴られたら、大出血で試合が止まるかも、という出血への不安なのか、眼の軸がぶれて、視野がうまく定まらないというダメージなのか、かなり危機的状況にあるように見えた。その他の、いわゆる足に来るとかいう身体的ダメージはなさそうで、ダウンしそう、というような類のピンチではなく、出血と眼のブレという、「まともにボクシングがしづらい」というピンチ。ここをドネアは上手に攻めて、毎回数発のクリーンヒットを決め、井上の強打は食わないようにして、確実にポイントを積み重ねる。後で採点を見ないと分からないが、2ラウンドから4ラウンドまではドネアがはっきりと取っていると思う。
5ラウンドに入って、そろそろいかないとポイント的にもマズイ、ということで、井上が右のグローブを、「目の周りガード用」から攻撃用に切り替えて、右の強打を繰り出すと、何発かクリーンヒットして、ドネアが明らかに効いた、逃げようという態度に出る。
ここは井上がワンポイント、取り返す。
6ラウンドもここのペースを維持するかと思いきや、ドネアが巧妙に、距離を保ち、前ラウンドの勢いをいったん切るが、ドネアが反撃するわけでもない。あいまいなラウンド。
7ラウンドには井上が左フックをいれ、左右の連打を繰り出すシーンが見られ、井上がやや優勢に試合を進め、流れをつかんだかと思えた。
しかし、8ラウンド、ここで反撃しないと前半のリードを失うとばかりに、ドネアが攻勢に出る。再び間合いをうまく外したパンチを井上の顔面にあて、井上が再び激しく出血する。
出血の印象もあり、明らかにドネアのラウンド。
9ラウンドはそのドネアの勢いが加速し、何度もクリーンヒットをし、井上の足が泳ぐ。このままではダウンも必至、判定でも不利だなあ、という空気が会場を支配する。
10ラウンドも流れは変わらないように見えるが、ドネアの顔面が腫れはじめ、井上のパンチが次第にタイミングがあって強く当たり始めたことがわかる。体力的にも、ドネアは少し苦しくなってきたよう。とはいえ、ときどきドネアもクリーンヒットをきめるため、明確に井上が取った、とも言いにくい。


ここまで、僕の採点は、明確にドネアは23489、明確に井上は57 あいまいなのが1、6、10。曖昧なラウンドを全部井上に入れてくれる日本びいきジャッジ一人はここまでおそらく互角のはず。中立のジャッジは2ポイントくらい、ドネアがリードしているはず。もしドネアびいきのジャッジがいるなら、4ポイントくらい、ドネアがリードしていてもおかしくない。つまり、判定では井上が負けている、というのが僕の予想だった。

ジャッジ日本びいき Aさん、95-95 。中立 Bさん 94-96。 ドネアびいき Cさん 92-98
この流れのままグズグズと12ラウンドまで行ったら、2-1と2-0、一人引き分けとか、そんな感じでドネアの勝ちになるのでは。ボクシングマニアの人たちは、きっとそれくらいの見方をしていたと思う。
(実際のスコアシートは後で出すのでお楽しみに。)

 そう思った11ラウンドに、みなさんご存じのとおり、必殺の左レバーブロー炸裂。ここで10-8はルール通り全ジャッジがつける。このレバーブロウは、本当に、一発で試合が終わっておかしくなかったところ。ドネアは立っていられなかった、(例のディレイド・リアクションで、打たれた一秒後に激痛、走って逃げて、立っていたらもっと打たれると、しゃがみこんだ。しゃがみこんだ後、さらに激痛苦悶。このままカウントアウトした、と僕は(テレビ音声を消して観戦していたので)思ったが、カウント9で立ち上がったドネアがすごい。しかもそのあと、打ち返したドネアはもっとすごい。そのうえラウンドの間に、おおむねダメージを回復して12ラウンド、普通に戦ったドネアがすごい。ドネアがどんだけすごいボクサーか、強かった場面だけじゃなく、あのレバーブロウ食った後にも、あらためて思い知ったわけです。

ところでね。ここからは、疑惑の判定の話。

観客席や、おそらくテレビの放送は、ダウンを取ったので井上勝った、みたいな騒ぎ方だけようだけれど、そこまでの試合をかなり悲観的に見ていた僕は、このラウンドのダウンが一回だったので、どうやったって10-7はつかないわけで、これはやばいな、と思った。
全員10-8をつけるので、10ラウンドまでと合計して
Aさん 105-103 Bさん 104-106 Cさん 102-106
まだ、1-2で井上、負けているだろう、というのが、僕の読み。
最終ラウンドにもう一回ダウンを取ってやっと
Aさん 115-111  Bさん 114-114 Cさん 112-114
1-1の引き分け。くらいの感じで見ていた。まあ、最終盤2ラウンド続けてダウンを取ったら、2-1に逆転、という結果に、誰かかうまく調節するかなあ。
つまり、12ラウンドに、もう一回ダウンを取らないと負けるぞー、と思った。
ところが、ドネアは復活するし、井上は慎重だし、おーい、余裕こいてる場合とちゃうぞーとテレビの前でジタバタしていた。
結局、最終ラウンドは、ダウンは取れずも、井上が明確に優勢で、僕も10-9でラウンドは取ったと思った。しかし、微妙に、これでは届かない。
普通の素人観戦の人たちは、あのダウンで勝ったと思ったのに判定が負けだったり、よくても引き分けになったら、テレビも会場もどうなるんだろう、とドキドキしながら、判定を待った。

さて、実際のスコアシートは
inouedonaire-1 (1).jpg


こう見ると、公正な判定をしたのはロバートホイル米国だけ。この人は10ラウンドまでは96-94でドネアが勝っている。このままドネアのペースが続けば、4ポイント差でドネアの勝ち。11ラウンドのダウンがあって、やっと同点になっている。最終ラウンド取ったほうが勝つ、という状況で井上が取って1点差。見ていた印象とぴったりでしょう。この人が正しい。

オクタビオ・ロドリゲス(パナマ)は、明らかに、誰かに買収されている。(日本サイドではなく、アメリカの興行主系だと思う。井上をこれからのスーパースターにして儲けたい人たちは日本人ではなく、アメリカの人たち)下種野郎だ。最高の一戦に泥を塗る最低ジャッジ。買収下種野郎ロドリゲスは、あのボコられた2ラウンドも井上のラウンドにつけている。目がついているのか?10ラウンドまで97-92と5ポイント井上が勝っているって、どんなド素人の井上ファンがつけてもこんな採点にはならない。ボクシング、こういうところは、本当に嫌い。

ポスカレッリ(イタリア)はやや空気読み井上有利に、しかし、不自然でない範囲にとどめた忖度しつつそつなく仕事をしたジャッジだ。ボスカレッリは10ラウンドまで96-94で井上わずかにリード。このままドネアが優勢に試合を運んだとしても、ぎりぎりドローで終わるラインに留めた。彼の仕事はビッグビジネスとしてのボクシングと、スポーツとボクシングのバランスを取る人、プロのジャッジとしては完璧でした。

ドネアは、本当に素晴らしかった。完全にからだを絞り切ったために、中年の悲しさ、腹の皮膚だけがあまっちゃって、知らない人には「腹が絞れていない」ように見えただろうけれど。あれは二階級上でやっていて、中年になっちゃうと、脂肪を落としても、皮膚だけ元に戻らなくなるのよ。それくらい、ドネアの仕上がりは完璧だったし、技術は神の域、達人の域だったし、それでも食ってしまった井上の殺人的レバーブローにも耐えて立って戦った精神力も人間業ではなかった。せめてジャッジ一人はドネアに勝ちにしてあげたかったな。そう思います。

それだけ完璧だったドネアを、11ラウンドに、あのレバーブロウでリングに這わせた井上尚弥。この試合を早いラウンドでKOして、パウンドフォーパウンド最強、という称号を得るという結末を期待したファンも多かったと思うけれど、それ以上に、ボクシングの崇高さまで感じさせる試合を日本中、世界中のボクシングファンに見せたことで、評価は高まるんではないかなあ。

井上尚弥もドネアも、本当に、最高でした。井上の右目とか眼底とかが、が壊れていないことを祈る。

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