コパアメリカ チリ戦を見て、久保建英、レアル移籍、将来への不安 [スポーツ理論・スポーツ批評]

今日の試合を見て、久保建英について、ちょっと不安に思ったことを忘れないように書いておこうと思う。ツイッター上に「今日の久保は、アルゼンチン代表でのメッシみたいな感じで苦しんでいた」という感想があって、それは僕も感じていたことなのだ。
 あと、この前、「(韓国、FIFA U20 MVPの)イ・ガンインは中村俊輔タイプだが、久保はちょっと違うタイプ」と書いたとき、実は「香川真司タイプ、ドルトムント・クロップ時代の全盛期、香川真司タイプ」と書こうかなあ、とあのとき思ったのだけれど、ちょっと自信がなかったので、(そんなに久保のプレーをちゃんと見ていないから)、もやっとごまかしたのだが、今日のプレーを見て、やはりそうなんではないかと思った。
 バルセロナのメッシや、ドルトムント全盛期の香川というのは、すごく点を取ったけれど、いわゆるセンターフォワードのように点を取るわけではなく、また、たった一人ですべてを打開するわけではなく、(メッシなんかはそうしているように見えるけれど)、球は触っていなくても、まわりが連動して動いている中で、得点シーンを作り出すタイプの選手なんだよなあ。中盤で一回、ボールを受ける→そのままドリブルする、としても周りはメッシと連動して駆け上がりながらいろいろポジションを取る。初期全盛期は、シャビやイニエスタや、もう一人のアタッカーやダニオアウベスが。MSN時代だとネイマールとスアレスが。
 今期のクロップ、リバプールが、フィルミーノを真ん中で気の利く、スペ-スづくりのフォワードにすることで、両ウイングのマネとサラーが鬼のように点を取るっていう、そういう「チームとしての仕組み」の中で、点を取るタイプ。
 クリスチャーノ・ロナウドのようにシステムと関係なく、本当に一人で点を取るとか、アグエロのように、一番、前にいるから、とにかく俺に入れたらなんとかするぜ、みたいなタイプの選手ではないんだよな。久保もメッシも香川真司も。

 だから、周りの選手のシステムが機能しない代表のアルゼンチンのメッシ、マンチェスターUに移籍した香川が苦しんだのは、そういう仕組みがないところで、一人で頑張れ、一人で打開して点を取れるだろうって期待されてしまうからなんだよな。
 メッシは、一見、どれだけ一人ですべてを打開しているように見えても、実は「周囲3人4人がオートマティックに連動する中で、あたかも一人ですべてを打開しているかのように点を取る」選手なんだと思う。
 スアレスは、ものすごく頭の良い選手で、バルサに行ってから、そういう風にメッシを活かすための動きをとてもよくしてくれていて、それが先日のウルグアイ代表の試合でも出ていたんだよな。

 久保はバルセロナのユースで、そういうサッカーを体に入れてきたわけで、レアルに行って、周りがそういう風には動かない中で、実力が発揮できるのかな。

 日本代表でも、基本的に鹿島出身のフォワードって、柳沢、鈴木の昔から、大迫まで、そういう中盤の選手か点を取るための動きがすこく上手い。
(日韓ワールドカップの日本代表の得点は、ほとんどがMFの得点だけれど、そのまたほとんどが柳沢との連携で生まれている。柳沢が怪我で欠場したトルコ戦で、いきなり攻めが機能しなくなった。)
大迫がいて南野がいて、そしてサイドから酒井宏樹が気の利いた上下動をしてくれてっていう中でなら、久保も代表で結果が出せると思うけれど、今日のような状況では、なかなか厳しい。今日、そういう形でシュートまで持って行けたのは、後半一回だけ。前半、個人技できれいに抜いてチャンスを作ったのが一回あったけれど、そのあと、周囲が誰もいなかった。DAZNの出したスタッツ見ても、一対一の勝率は中島の方が高かった。

 俊輔やイ・ガンインは、基本的に「仕組みを作る側」の役目を果たせば評価される選手なわけだけれど、久保やメッシや香川は、(実は仕組みを利用しながら)、あたかも仕組みが関係ないかのように、自分で点を取らない限り、評価されない選手、なんだよね。
 イ・ガンインや俊輔は、「仕組みづくり+コーナーキック+フリーキック」全体で、何点得点に絡んだか、で評価OKなんだけれど、メッシや久保や香川は「システム利用しながら、自分で打開して何点取ったか」でないと、評価されない選手なの。

 そういう意味で、久保を世界にアピールするならば、周りの仕組みがオートマチックに動く「大迫 南野 堂安 酒井宏樹 柴崎」システムの、堂安の替わりに入れてあげるようにしないと、「久保すごい」っていう結果は、なかなか出ないと思う。
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FIFA U20 三位決定戦、イタリア×エクアドルを見ながら考えたこと [スポーツ理論・スポーツ批評]

コパアメリカ始まり、コパアメリカ開幕戦、ブラジル×ボリビアを観戦中なのだが。(朝、眠かったので、生放送では半分以上寝ていたので、夕方、今、見直している.)

FIFA U20三位決定戦を今朝観戦していておもったこと。大会を全試合もれなく観戦していると、イタリアもエクアドルもそれぞれもう7試合目なので、ほぼ全選手、顔なじみというか、キャラ立ちして認識できている。解説、実況コンビも同様に、選手を「親しみ」をもって認識している。単にプレーの特質だけではなく、性格、切れやすいとか、真面目だが不器用とか、そういうことまで含め、あるいは今大会の流れの中でうまくいっている選手、フラストレーションを抱えている選手、そういうことも含んだ解説になっていく。

例えば

エクアドルにはキンテーロという中盤の底の、先発だったり、交代で出てきたりする選手かいるのだが
①ユニフォーム シャツを、ただ一人、ズボンの中に入れている。
②いつも思いつめたように真面目な顔をしている。
③大柄なのだがちょっと猫背で、真面目だが視野が狭い感じの、不器用なプレーをする。守備は一生懸命するのだが、展開するとかそういうクリエーティビティは無い。
④守備を一生懸命気合をいれてするあまり、マークする選手と、すぐ、もめる。小競り合いになる。

今日も、試合終盤、0-0のまま、攻め合いになる中で、キンテーロ投入。解説者苦笑しながら、「ここで、キンテーロですかあ」
この後、イタリアの右サイド、これも交代で入ってきた、見るからに血の気の多いペッレグリーニと何度も小競り合いになる。

NBAでもそうだが、スポーツを集中して見る楽しみというのは、チーム全体のパフォーマンスが、そうした交代選手まで含めた、選手ひとりひとりの、プレーの特徴だけでなく、性格や、その大会の中での流れ、思いのようなものの蓄積の集積として見えてくるということなのだよなあ。

という意味では、コパアメリカ開幕戦、まだ、選手それぞれに顔なじみ感がなく、(ブラジル・セレソンは所属チームそれぞれではおなじみの顔だが、このチームとしては見るのは初めてだから)、それを頭にいれようと思いながら、眺めている状態。ボリビアチームは初めて見るし。
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コパアメリカ開幕記念、南米中堅国、内弁慶と南米の歴史について [スポーツ理論・スポーツ批評]

今回は日本代表が参戦することで注目を集めているコパアメリカですが、私、個人的には、ユーロとコパはワールドカップより試合のレベルが平均して高い、面白い大会と位置付けています。

ユーロは「ひとつも弱いチームがない」ということなんですが、コパアメリカは「南米の田舎の国、地元ではすごく強い」大会、というのが、面白いんですね。

田舎の国、というと、すんごい差別発言のようですが、南米の国というのは、ワールドカップでも、主催国・会場が南米(北中米含め)でやる大会は強い、ヨーロッパでやる大会は弱い、という基本傾向があります。

南米の国が、欧州開催のワールドカップで優勝したのは1958年大会のブラジルの一回だけ。あとは全部欧州の国が優勝しています。
逆に、南米の国が、南米開催のワールドカップで優勝を逃したのは、この前のブラジル大会でドイツに優勝されちゃった一回だけ。
USA大会・メキシコ大会、アメリカの属国・日韓大会、優勝はブラジル・アルゼンチン・ブラジル、南米の国なんです。

要するに、南米の国は、欧州では力を発揮しにくい、ということか。

ブラジル、アルゼンチンのような強国でさえそうなので、チリ・パラグアイ・ペルーあたりの中堅国は、ワールドカップでは、なかなか上まではいかない。せいぜいベスト16くらいなわけ。しかし、こうした南米中堅国が、コパアメリカでは強い。ワールドカップ南米予選で、アルゼンチンやブラジルが苦しむことがよくありますが、なるほど、こういうことか、と思います。

南米の国というのは、征服者スペイン人など欧州系の末裔、被征服者インカ帝国住民や原住民の末裔、奴隷として連れてこられたアフリカ系の人の末裔、その混血、という人種民族構成におよそなっている。
 アルゼンチンなんかは、19世紀に「白人国家化」という国家政策がとられ、さらに欧州白人の移民をどんどん入れたので、白人比率が非常に高い、ウルグアイも、白人比率の高い国である。「南米の中の欧州」的意識が高い。
 
 ブラジルの成り立ち、ポルトガルのブラジル植民では、原住民は狩猟採集生活の原住民しかいなかったところを一気に征服したので、インカ帝国を滅ぼされて征服された末裔の国々とは、国民意識のありようが他とずいぶん違うようである。白人黒人原住民の混血が進んでいるし、人種差別もそんなにない。

 サッカーの「内弁慶」度合いで言うと、インカ末裔系の住民比率が高い国の、内弁慶度が高いように思われる。ペルー、チリ、ボリビアあたり。パラグアイはインカ帝国勢力圏外だったけれど、パラグアイも原住民比率は高い。

 南米の歴史の中での、ヨーロッパとの心理的距離が遠い、あるいは「征服-被征服」という歴史的背景が色濃く国民意識に残る国ほど、内弁慶度が高くなるのかなあ、というようなことを、いろいろ考えたりする。

 ブラジル×ボリビア戦の、ボリビア選手を見ながら、そんなことも考えたりします。
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NBAファイナル カズンズとクック、悔しいなあ。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

NBAファイナルの感想を、忘れないうちに書いておこう。

 ラプターズ、ウォリアーズ、どちらもいいチームで、どっちを応援するというのでもない、という気持ちかなあ、と対戦に入るまでは思っていたのだが、いざ始まってみると、やはりここ数年、見続けてきたウォーリアーズの方を自然に応援する気持ちで見ていた。

 ケビン・デュラント(以下KD)加入以降の「ビッグスリーそろい踏み」ウォリアーズは「ちょっと強すぎる」と思っていたので、彼が負傷欠場で、スプラッシュブラザーズ、ステフォン・カリーとクレイ・トンプソンの二人を軸に戦う、「スティブ・カーが初めに作ったウォーリアーズ」原型に戻ったことも、応援する気持ちを加速させたようである。

予想通り、KD抜きのウォーリアーズとラプターズは、戦力的にちょうど互角。いいぞ、と思っていたら、なんとクレイトンプソンが第二戦終盤で負傷。その試合は勝ったものの、第三戦はクレイトンプソン欠場。KDとトンプソン、ビッグスリーのうち二人を怪我で欠いて、第三戦大敗。

第四戦、トンプソンが戻ってきたのに、カワイレナード絶好調で、またも大敗。

1勝3敗と追い詰められたウォリアーズ、第5戦に、なんと、KDが復帰。第1クオーターだけで11点取る。やっぱりKDがいると圧倒的に強いなあ、と思った瞬間(ラブターズファンは、やばいKDがいると、歯が立たないなと思った瞬間)、、、、なんと第1クォーター11分で、KD、 アキレス腱断裂で戦線離脱。ラプターズファンが、怪我をした瞬間、拍手をして大喜びしたことで、後でメディアや選手たちからも批判されたけれど、気持ちはわかる。KDがいたら、絶対勝てないと思わせるほど、わずか11分だけれど、KDはすごかった。

KDがいなくなっても、その11点分のアドバンテージが効いて、なんとか第5戦はウォーリアーズが勝って、2勝3敗。

そして迎えた第六戦。
本拠地オラクルアリーナは、今年で取り壊しが決まっており、47年の歴史、最後の試合になる。けがをしたKDへの思いもある、ということで、ウォーリアーズは、ファンも選手も「絶対負けられない」気持ちで戦いに臨んだ。

この試合、エース、カリーは不調で、前半わずか六点。しかしクレイトンプソンが絶好調で、スリーポイントを次々しずめて、互角の勝負が続く。

第三クオーターも、トンプソンがスリーポイントを立て続けに決めて、リードを奪う。そして、敵のボールをスチールして、トンプソンがリングにドライブをかける。ラプターズのグリーンがブロックしようと後ろから追いかける。

トンプソンは、普段はほとんどダンクをしない。リングにドライブしても、軽くレイアップを決める選手た。
しかし、後ろからグリーンが激しく追いかけてくるのを感じたトンプソンは、ブロックされないように、ダンクを選んだ。これが悲劇を呼ぶ。
空中でグリーンにぶつかられたトンプソンは、着地でバランスを崩して、膝を痛めてしまう。私の見たところ、内腹側靭帯を伸ばした、という感じの怪我。立ち上がれない。スタッフの方の助けを借りてロッカールームに下がっていくトンプソン。
ファールコールが吹かれていたから、フリースローをトンプソンがしなければ、ゲームは再開しないのだ。怪我で出場不可能なら、他の選手がフリースロー。しかしそうすると、トンプソンはもうゲームに戻れない。

 カリーは、遠くに座り込んで、トンプソンが退場するところを見ている。呆然としている、というよりも、頼れる相棒が、第四クォーターにはいないこと、自分がすべてを背負うことを覚悟した表情でトンプソンを見送った。

 しかし、ロッカールームに下がる廊下の途中で、トンプソンが急に反対を向いてコートに戻り始める。
 ひざの靭帯が「切れてはいないが酷く傷んでいる状態」というのは、実は怪我をした後、数分間は、なぜか動けてしまうのだ。(私も柔道で膝靭帯を怪我した後、その試合だけは続けられた、という経験がある。)

トンプソンは、とにかくフリースローだけは打って、第四クォーター行けるかどうかは、そのあと考えよう、と思ったのだ。

トンプソンがコートに戻ると、オラクルアリーナは大歓声。その中、トンプソンはフリースローを、こともなげに二本決める。

 しかし、そのあと、けがの治療に下がったトンプソンは、そのままコートに戻ることは無かった。

 第四クォーター、KDも、クレイトンプソンもいないウォーリアーズ。いまだ調子の戻らない、たつたひとりのエース、カリー。彼を助けようと脇役プレーヤーたちが奮闘する。はじめにNBAチャンピォンになったときに、カリーを差し置いてMVPになったベテランのイグダーラが本領を発揮して、次々と得点を重ねて、なんとか互角の勝負を続ける。

 そんな中、このけが人だらけのシリーズの。、ウォーリアーズの戦いのカギを握った、二人の選手を紹介したい。

一人は。センタープレーヤーのカズンズ。前所属のペリカンズ、サクラメントキングズ、では一試合25点平均を取るチームの中心選手で、期待されて今シーズンからウォリアーズに移籍してきたが、プレーオフ前に怪我で離脱し、ファイナルで復帰して来た。チームメイトが全員健康であれば、このチームではそれほど大きな責任は負わされない存在だったのが、最後の最後に、攻めの中心を担う立場になった。

もうひとりはポイントガードのクイン・クック。2017-18シーズン、カリーが怪我をしたときに大活躍をして、重要なベンチメンバーになっていたのだが、このシリーズは、プレッシャーに負けてか、ほとんどシュートを決められていない。

話は戻って、この第四クォーター終盤、カリーにディフェンスが集中する中、この二人、カズンズとクックがシュートを打つシーンが多くなる。カズンズはなんとか何本か決めるが、クックはとうとう決めることが出来なかった。

試合は、最後、カリーが逆転のスリーを外したところで勝負あった。そのあと、ファール、フリースローと時間をつぶすように試合は続いた後、ラプターズの初優勝が決まった。

 そこに至るところで、第四クォーターの勝負所で、クックのシュートが一本でも決まっていれば、という印象が強かった。

 中心選手がここまで怪我をしてしまっては仕方がない、ともいえるが、もしここで活躍すれば、クックの選手としての評価は、決定的に上がったのに。人生の、ものすごく大きなチャンスを逃してしまう瞬間を見たようで、切ない気持ちになった。

 勝者の、ラプターズ側にも、いろいろなドラマがてんこ盛りであったシリーズなのだが、やはり、ウォリアーズに共感して見ていた気持ちに沿って、忘れないうちに、感想書きました。
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FIFA U20 ニュージーランド×コロンビア PKの新ルールについての感想、考察。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

FIFA U20、今大会で僕がいちばん気に行っていたNZ代表が、コロンビアと、延長まで1-1、PK戦も七人目までいく熱戦の末、敗れてしまったのですが。本当に素晴らしい内容の試合でした。
コロンビア相手に、互角以上の素晴らしい戦い。何度も何度も素晴らしい崩しをし、粘り強く守り、本当にいいチームでした。
Jスポーツ解説&実況も言っていた通り、かつての日本の小野世代がこのワールドユースで準優勝し「黄金世代」と言われ、
世界に日本サッカーが認められていく人材を多数輩出したように、このNZ代表は、NZ黄金世代として、活躍していくと思います。

 さて、そのPK戦ですが、今回から新たに採用された「厳密ルール」さえなければ、おそらく、NZが勝っていたと思います。その事件を中心に、
今回、テスト的に採用されている新ルールについて説明したいと思います。
今大会、FIFAは、これから世界のサッカー界に適用を検討している新ルールを、今大会でいくつか試しています。
①ゴールキック時に、ペナルティエリアに味方がいても蹴っていい。その選手にパスしてもいい。
(今まではペナルティエリアから味方が出るまで蹴ってはいけなかった。)→クイックにリスタートでき、バックの選手からボールを展開することも可能になった。
②選手交代時、退出選手は一番近いタッチラインからすぐ出ないといけない・→時間稼ぎ、ゲーム遅滞の防止。
③ハンドの反則において、いったん選手の体、頭などにあたったボールが跳ね返って手に当たったものはハンドとしない。など、細かに規定。

ここまでは、まあいいのだが。

PKの際は、キーパーはキッカーがボールを蹴るまで、少なくとも片方の足をゴールライン上に置いておかないといけない。(前だけでなく、後ろでもいけない。)
これに違反した場合、キーパーにイエローカードが与えられ、PKはやり直しとなる。

これって、PK戦で二回、この違反をすると、イエロー二枚でレッドカード退場になり、キーパーじゃない選手がキーパーをやらなければいけないってことになるのだが。

グループステージはPK戦は無いから、昨日の試合が初めてのPK戦での適用だった。(どの試合化は忘れたけれど、試合中のPKでは、一回、足が動いて取り消し&カードが出た)

NZのキーパー、フル代表経験もあるワウドは絶好調で、二本連続、見事にセーブ。三人目も完璧に止めた。と思ったところ、足が動いたとして、やり直し&イエローカードが提示された。
今までの基準で言えば、全く問題ないタイミングと足の動きだったのに、違反を取られ、カードまでもらったためにワウドは動揺、委縮してしまい、それ以降、全く止められるタイミングで飛べなくなってしまった。

これではPK戦、勝ちようが無い中で、キッカーが踏ん張っていたが、結局、七人目ではNZキッカーが外してしまい、負けてしまいました。

このルールを全年齢全世界で展開した場合、今まで長年やってきたタイミングで飛ぶキーパーは、二回に一回は、イエローカード、もらっちゃうと思います。
そして、厳密に適用すると、キッカーが吹かして外すか、かなり真ん中よりにミスキックしない限り、ほぼ決まっちゃう、セーブの可能性が大きく落ちると思うなあ。
キッカー有利、キーパー不利になり過ぎると思う。
もう少し、よく検討工夫した方がいいと思います。
例えば「キッカーのキックの一歩手前の足が踏み込んだら動いてOK」とか、なんとか。

少なくとも、この反則でのイエローカードはきつすぎる、やり直しだけで十分たと思いました。二回連続したら、イエローカードとか。PK戦の場合は三回目でイエローカートとか。そうでないとキーパーが委縮して、思い切ったセーブができなくなります。
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井上尚弥 ロドリゲス 戦(WBSS準決勝) 超マニアック 技術分析 [スポーツ理論・スポーツ批評]

短い試合だったので、全編をスロー再生して三回見た。ダウンシーンはスロー再生、いくつかのカメラ角度映像で、30回見た。そして分析考察した感想。

論点① 1ラウンドは井上は劣勢だった。WOWOW解説浜田剛史氏、西岡氏ともにロドリゲス10-9井上と採点している。私もその意見に賛成。どう劣勢だったかを細かく分析する。

まっすぐに打つジャブ&ストレートの打ち合いで、ロドリゲスが明確に有利。リーチがロドリゲスの方が長いだけでなく、タイミング的に「先の先」を取るのがロドリゲスはうまい。これは、井上が打とう、という気持ちになった瞬間に、ジャブを先に出して当てる、という技である。「先の先」をとって、ジャブを三回は当てている。ジャブをまっすぐ伸ばした距離で1ラウンド目はほぼ戦ったために、ロドリゲスが有利であった。
 加えて、ジャブが効果的だったために、ジャブのフェイントを右にダッキングした井上に、左ジャブから左フックに切り替えて軽く当てたり、左ジャブに体とガードを開いて左にスウェイして逃げる井上の癖をとらえて、井上の頭が移動する先に右ストレートを予測して打って、軽く当てる、というポイントを稼いだ。ダメージは全くなかったものの、攻撃の主導権をロドリゲスが取ったのは明らかであった。
 井上が主導権、先手を取って攻撃しようとしたリードブローの左ジャブはあたらず、また半分くらいはリードブローを左を、ジャブではなく、フックを打ったが、これは当たらなかった。いきなり右から放つパンチについては、一回、有効打になったものの、力んでストレートともフックともつかないパンチとなり、ほとんどがかわされた。

 ただし、一発目のロドリゲスのジャブをかわして、フックの間合いまで詰め、両者とも腕を90度より鋭角に曲げたままフックを振り合う展開になると、井上が明らかに有利であることを、井上も感知した。これはロドリゲスの方がリーチが長いためだけではない。フックの打ち方の技術的にロドリゲスがフック系のパンチはアウトサイド(相手のガードの外側)からかぶせるようにしか打てないので、井上は用意にブロックやダッキングで防御できるのに対し、井上は、フック系のパンチも相手のインサイド(ガードの腕、グローブの間)からも打てるという、技術の優劣がはっきりあることがわかる。このことが、2Rの、一回目のダウンシーンにつながる。

論点② 初めのダウンの左フックと、井上の際立ったパンチ力の秘密。

2ラウンド立ち上がり、井上はジャブストレートのワンツーを軽くヒットして「機先を制した」後は、フックの間合いにぐんぐんと入って、フック系ショートパンチを放ち合う展開に持ち込むと、一気に井上有利となった。
 はじめのダウンシーンも、フック間合いでの相手のフックをダッキングした後、右ボディをインサイドから当てた返しで、左フックを振った。このダウンを奪った左フックの打ち方が独特で、パンチの初動は肘を深く曲げたフックであるが、するどく相手のインサイドに拳をねじ込むと、肩を返して、インパクトの瞬間は肘が伸び、肩がロックしているストレートのようなインパクトの仕方になっている。
 井上の、階級の常識を超えた強烈なパンチ力については誰もが認めるところだが、その要因を分析したものをあまり読んだことがない。「すごい筋力」とか「石のように拳が硬くて痛い」とかいう幼稚な描写でごまかしているものがほとんどである。私は、井上のパンチインパクトの瞬間の肩、肘といった関節が瞬間的に「剛体化」ロック・ブロッキングして、下半身から加速された力が、相手に伝わって、打った側に戻らないことに、常識はずれのパンチ力の源泉があると考えている。パンチを打っても、関節がインパクトの瞬間にゆるんでいれば、力が自分に戻ってしまって、相手に伝わるエネルギーは小さくなる。陸上競技の走り高跳び選手の踏切や、短距離選手の足の接地の仕方の理論として「ブロッキング理論」というものがあるが、あのような、力を100%伝える瞬間的剛体化の感覚、技術が、井上は際立って優れているために、パンチ力が人並み外れて強いものと考えられる。
 井上はフック系パンチが空振りしたときには、当然インパクトしない=「ロック・ブロッキング」の機会はないので、普通に、軌道に従って「ブン」と空振りするわけだが、当たった時には「クッ」と全身を剛体化、特に肩関節を剛体化することで、全身の力を相手に伝え切り、自分の方に力を戻さないのである。その特徴が強烈に出た、初めの、顔面への左フックであった。

論点③ 二度目のダウン奪取、効いたのは左ボディフックであって、右のボディアッパーではない。

試合後の各新聞。メディアの記事で非常に気になったのが、二度目のダウンを奪ったパンチを、右ボディ(アッパー気味のフック)としているメディアが八割を占めたこと。以下に各メディアの記事をつけておくが、その一個前の左ボディフック(外側からレバーを打っているパンチ)をダウン要因としているのは、日刊スポーツのみ。ベースボールマガジン社は両方のパンチに言及しつつ、(連続写真付き。)どちらがより効いたかは判断していない。
他のすべてのメディアは右ボディーのみがダウン要因と記述している。

 二種類の角度からのダウン映像を、スロービデオで各30回見たが、初めの左ボディが非常に強くインパクトしている。ご存知の通り、左フックのレバーブローは当たってから、1秒ほどの時間差を持って、効く。「当たる」「耐えられるかな、と一瞬思う」「やっぱりものすごく痛い」「倒れる」という効き方をするものである。
 この「一瞬耐えられるかな」と思っているタイミングで、返しの右ボディアッパーが、軽く掠る(かする)ように、みぞおちやや右側からあばらを掠るように当たっている。掠るように当たっても、効くことはあるから、こちらが全く効いていないわけではないと思うが、当たってから倒れるまでのタイミングと決めの強さから見て、
左レバーブローが効く→時間差で激痛が走るタイミングで返しの右ボディが掠る→倒れる、ということが起きたものと思われる。

 二度目のダウンを「右フックで」とのみ書いたメディア、記者の目は節穴ではないか、と私は思う。

 なぜなら、あの苦しみ方は、みぞおちではなく、左フックレバーが効いたときの苦しみ方だから。レバーに打撃や蹴りを食った経験がない人にはわからないと思うし、ネットでいろいろ調べてみても、解説しているページを書いている人自身に、その経験がなさそうなので補足しておく。(私は<
恥ずかしながら、三度ほどある。)
喰った瞬間は「ん、食ったけど耐えられそう」と思った次の瞬間に、激しい痛みともに、下半身の力が抜ける。体をまるめないと耐えられない不快な痛みが広がる。「ううううううう」という声が、全く我慢できずに出続ける。肛門の力も抜けるし、上からも下からもいろいろ出そうになるが、実際には出ない。くの字に体を曲げてのたうちまわるしかない。とにかく激しく痛くて苦しい。
 ということで、あれは、初めの左ボディフックレバー打ちでこの状態になりかけたところに、追いうちの右フックがかすって当たったのである。

論点④二度目のダウンをしながら、鼻血を出しながら、苦し気に首を横に振ったロドリゲスをバカにしてはいけない。
あれが「もうできない、だめだ」という意思表示だとしたら、ロドリゲスは立たなかっただろう。あれは、コーナーに向けて、「タオルを投げるな、まだやるから、試合を止めるな」と伝えている表情と仕草なのだ。ロドリゲスのすごいところは、三度目のダウンをした後でさえ、カウント8で立ち上がって、まっすぐ立って、表情も戻して、まだ戦えるという意志を示していること。レフェリーが止めたが、ロドリゲス自身はギブアップしていない。

 以上のことから、2ラウンドで終わった試合で、井上の強さだけが際立つ試合だったが、ロドリゲスは1ラウンドには見事な戦い方をして主導権を握ったし、2ラウンドは倒されながら、チャンピオンとしてのプライドを見せた。立派な試合だったのである。


参考資料、各メディアの2回目ダウンについの記述

日刊スポーツ
「2回開始すぐにワンツーでのけぞらした井上は「当たれば倒せる」と狙いすませたカウンター気味の左フックで最初のダウンを奪った。鼻血を出したロドリゲスに左ボディーで2度目、さらに起き上がってくる相手にワンツーからの左ボディーで3度目のダウンを奪ってTKO勝ち。」

共同通信
「互角の初回を終えると、2回早々に井上が一気に仕掛ける。リング中央で右ボディーから顔面へ左フックを返すコンビネーションで痛烈なダウンを奪う。再開後、右ボディーですぐにダウンを追加。ロドリゲスはあまりの衝撃に戦意を喪失したかのごとく自身のコーナーへ顔を向けて首を振った。何とか再開に応じたものの、ロープに詰められ左ボディーで3度目のダウン。」

ベースボールマガジン社
「井上尚弥が、またしてもやってくれた。2ラウンド、左フックでロドリゲスをなぎ倒すと、左フック、右アッパーカットと、目にも止まらぬボディブロー2連打でふたたびIBF王者にキャンバスを味わわせた。  
左ボディフックか右ボディアッパーへつなぐと、ロドリゲスは2度目のダウン。「あのボディで勝利を確信した」

サンスポ
「2回だった。まずは左フックでダウンを奪うと、今度は右ボディーで2度目のダウン。最後はワンツーで3度目のダウン。たまらずレフェリーが試合をストップさせる圧勝だった。 」

スポニチ
「2回に豪打が火を吹いた。30秒過ぎに返しの左フックで最初のダウンを奪うと、49秒で右ボディーを突き刺して2度目のダウン。さらに連打から左ボディーで倒すと、レフェリーが試合を止めた。」

THE ANSWER編集部
「2ラウンドだ。開始30秒、左のショートフックでまずダウンを奪うと、右のボディーで2度目のダウン。ロドリゲスも立ってきたが、一気に詰めて3度目のダウン。膝をつかせると、もはや戦う意思は残っていなかった。

東スポ
「2R開始早々、前に出た怪物は強烈な左フックが空振りに終わるや、返しの右ボディーから狙い済ました左フック一閃。顔面にヒットすると、ロドリゲスは腰から崩れるようにダウンした。この一撃で鼻から出血したIBF王者に対し、井上は一気にラッシュ。さらに右のボディーで2度目のダウンを奪って、最後は圧巻の左ボディー。IBF王者を3度ダウンさせて圧勝した。」

ロイター
「井上は1回からキレのある動きを披露。2回の序盤に左フックで初のダウンを奪う。さらに強烈なボディーで2回目のダウン、連打で3回目のダウンを奪ったところでレフェリーが試合を止めた。」

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理想のスポーツ中継としての、NHK 全日本柔道選手権について。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

スポーツ放送の、ひとつの理想形として、私は、NHKが放送する、全日本柔道選手権があると思います。

 柔道日本一を決める、無差別級の大会です。全国各地の予選を勝ち上がった選手と、全柔連推薦の選手、合わせて42人が、日本一を争う大会です。この大会、放送しやすい理由があって、日本武道館で行われるんですが、試合場が、ひとつしかないんですね。一試合ずつ、試合が行われるんです。

 だから、放送しようとすると、そのときやっている試合を放送するしかないわけです。

 午前中から試合は始まっているんですが、テレビの中継は、まず、午後一時からBS1で始まります。二回戦の途中からになります。今年の放送も、始まった瞬間から、そのときやっている試合(加藤博剛と上林山)の試合をそのまんま放送してくれます。余計なオープニング映像も、あおりVTRもなく、すぐに試合そのものを放送します。そのおかけで、体重160キロもある上林山を、加藤が、(主戦場は90キロ級で、この日も100キロあるかないかの体重、しかし日本一の業師、ミスター全日本と柔道ファンに呼ばれている)、見事な小外刈りでぶん投げるところが、きちんと放送されます。(もし民放で放送していたら、オープニングあおりVTRを流しているうちに、この試合は放送されずに終わってしまったでしょう。)

「くだらないCG満載オープニング映像+あおりVTR」と、「業師、ダークホース加藤(実はこの後、今大会の主役になる)が、160キロの巨漢をぶん投げる試合そのもの」どちらが大切か、視聴者がどちらを見たいか、言うまでもないですよね。

 それに続いては、あの、ロサンゼルス、ソウル、二大会連続五輪金メダルの故・斎藤仁さんのご子息、まだ高校三年生の斎藤立の試合です。斎藤選手は高校では無敵の怪物のような強さ、かつ、お父さんに姿かたちも、技のかたちもそっくりということで、柔道ファン大注目の選手です。もし民放ならば、そうした「父の映像、父が子に稽古をつけている映像、高校の大会での映像、なんやかんや、親子の感動のドラマ」みたいなVTRを作って、アナウンサーもくどいほど「父、斎藤仁さんの魂が」みたいなことを、おそらく試合中30回くらい叫ぶに違いないわけですが、NHKでは、そのような余計な演出は一切ありません。淡々と試合を中継します。そして、試合は見事な大内刈りで斎藤選手が勝ち。演出ではなく、試合の中身が、斎藤の非凡な才能を見せつける。試合が終わった後に、斎藤仁さんと全日本で何度も死闘を繰り広げた山下 泰裕さんをちらっと映し、親子を共に知る国士館高校の監督のコメントを一言紹介するだけ。
 とにかく、試合がテンポよく、切れ目なく続くので、余計な演出を入れている暇がない、つぎつぎ注目選手が出てくるので、試合を映しているだけで、面白い。

 本当は、民放で放送される柔道の大会も、同じように次々と試合が行われ、演出盛り上げVTRなんて入れている暇は本当は無いわけですが、民放ではそうした演出を入れるために、本当は放送すべき大事な試合が、全く放送されないということが起きているわけです。

 試合が三回戦まで進み、ベスト16が戦っているところで、地上波NHK総合に中継が引き継がれます。今年は、BSで中継している最後の試合、佐藤和哉対熊代の試合で大事件が起きました。両者、消極的で全く技を出さず、両者ともに三階指導を取られて、両者反則負け。
 この試合を解説していた穴井隆将・天理大学監督(全日本二回優勝経験あり)の解説が立派だった。審判の指導を取るタイミングに苦言を呈しつつ、こういう試合になった両選手を厳しく批判した。
 面白い試合だけでなく、こういう、「本当にダメな試合」も放送されることが、実は大切で、「何が大切で、何がダメなのか」ということが、いい試合だけでなく、ダメな試合も見ることで、わかってくるわけです。

 さて、ベスト8がぶつかる準々決勝。
この大会で、最大の注目は、原沢久喜。リオ五輪で、無敵最強王者、フランスのリネールをあと一歩まで追い詰めて銀メダル。しかし五輪後に調子を崩し、国内でも海外でも全く勝てなくなった。それが今年に入り、復調。海外の大きな大会、グランドスラムでも優勝し、今夏の世界選手権代表の最有力候補。この大会もここまでの勝ち上がりは完璧。というようなことは、アナウンサーが淡々と説明するが、「あおりVTR」は無し。準々決勝の対戦相手は東海大四年生の太田彪雅。学生としては強豪だが、世界選手権代表争いに絡むほどの実績は無い。しかしこれが、大健闘。ゴールデンスコア迄もつれ込んだ試合は、最後、見事な一本背負いで、太田が原沢を投げる。

 これが、民放の放送で、「原沢主役」あおりVTRを
さんざん流した後に、こうなったら、「あらあら主役が負けちゃった」がっくり、となるのだが、そういう余計な演出が無いから、ものすごい熱戦で、太田が勝った、という印象が視聴者には強く印象付けられる。

 次は先ほど紹介した、業師、加藤博剛と、これも若手だが業師の影浦心。影浦は国際大会でもまずまずの成績を残しており、原沢が直前で敗れたため、この全日本で好内容で優勝すれば、もしかすると世界選手権代表の眼もあるか、という心の揺らぎがあったか。
 試合はわずか12秒、初めに組手争いをしていた流れのまま、業師加藤が、見事な支えつり込み足で、影浦を宙に舞わせて、一本。会場からも大きなどよめきが起きる。やはり、加藤は全日本では毎回、すごい、強い。

 加藤は、国内の大会、特に全日本ではめっぽう強く、100キロ級以下の選手であるにも関わらず、優勝一回、三位二回、自分より大きな選手を、巧みな投げ技寝技で仕留めて大活躍する。
 しかし、その実績で国際大会に派遣されると、なぜか、これが、からっきし弱い。たいてい一回戦二回戦でころっと負けてしまう。「国内専用選手」「全日本専用」と言われるくらい。国内と海外で強さが違う。柔道ファンはそのことを、あらためて今大会も確認しつつ、「やっぱり加藤は全日本ではめっちゃ強いなあ」と楽しむわけである。

 この加藤、やはり寝技業師で、国際大会でも活躍している女子57キロ級の角田夏美(美人選手)とつきあっているというのも話題なのだが、NHKなので、当然、そういうことには触れない。

 次は、王子谷剛志と、ウルフ・アロン。王子谷は日本選手権三回優勝だが、加藤同様、国際大会で勝負弱いため、世界選手権代表の可能性は低くなっている。しかし、国内、この全日本ではすごく強い。原沢も負けたことだし、俺が優勝だ、という気合が入った顔で登場。一方、100キロ級のウルフアロン。二年前の決勝の組み合わせである。ウルフは、100キロ級での世界選手権代表がすでに決まっていて、特に参加する必要はなかったのだが、どうしても全日本のタイトルが欲しい、日本一になりたいという思いでこの大会に臨んでいる。両者ここまで絶好調での激突。延長まで入り、ウルフが豪快な内股で一本。

 準々決勝もう一試合は、小川雄勢(小川直也氏の息子)、相手が両者反則負けでいないので、不戦勝で準決勝に上がった。

 準決勝までしばらく間があく間、ここで初めて演出VTRが入るのだが、なんと、1964年の東京五輪、というと、今まではヘーシングに負けた神永昭雄選手のエピソードや、柔道界の中心で活躍し続けた岡野功氏や猪熊勲氏が取り上げられることが多かったのだが、軽量級で優勝した中谷雄英氏の試合と現在の氏へのインタビューという渋い内容。

 そして準決勝。
業師、加藤と、大本命原沢を破った太田。業師加藤が次々と巴投げ、そこからの寝技を繰り出し、太田が膝を痛める。もう踏ん張りがきかず、加藤が見事な巴投げで一本勝ち。七年ぶりのの決勝進出を決める。

小川雄勢とウルフアロンの対決。一試合休んで体力には余裕の小川と、王子谷と延長を戦ってのウルフアロン。しかし、ウルフは本当に強かった。体重が30キロ以上重い小川を、見事な大内刈りでぶん投げて、ウルフの勝ち。

 ここで決勝まで時間があくのだが、毎年恒例、一回戦から準決勝までに出た、すべての「一本」をまとめたVTR「今日の一本」が流れる。これは、民放の柔道放送でも、ぜひ、まねをしてほしい。

注目選手、有名選手でなくても、素晴らしい技を決めて、見事な勝ちを挙げた選手のことを、日本中の柔道ファンにしっかり届ける。

サッカー番組の「今週の世界のスーパーゴール集」とか、Jリーグ番組の「今日の全ゴール」とか、古くはプロ野球ニュースの「今日のホームラン」。ああいうの、見ると興奮するでしょう。すごいなあって思うでしょう。

「有名選手かどうか」ではなく、純粋に「技としてすごい」というのを、まとめて見せてほしい。東京グランドスラムや全日本選抜、講道館杯など、民放(主にフジテレビだが)が放送するわけだが、注目選手紹介のくだらないVTRを何度も流す暇があったら、日本選手外国選手全員の、「見事な一本集」を流した方が、ずっと良い。

 「日本人の技はきれいだが、外人は力任せで柔道ではない」みたいな古臭い先入観を持っている人がまだまだ多いが、グランドスラムでも世界選手権でもオリンピックでも、日本人選手だけでない、全選手の「今日の一本」を放送してくれれば、実は、今や世界中の選手が、美しい柔道の技を使えるようになっていることがわかると思う。今どきは海外の選手もYouTubeはじめ様々な媒体で日本人選手の美しい技を研究している。また世界中の、いままであまり柔道がさかんでなかった国にも、日本人のコーチがナショナルチームのコーチになったりしている。また、日本で生まれ育った、二重国籍を持っている選手が、外国の代表で世界選手権や五輪にも出てくる。
 柔道の技にもそのときどき流行があり、日本人が最近あまり使わなくなったような古典的な技を、外国選手が研究して上手に使ったりもする。柔道が本当に世界で愛され研究されているということを知る上でも、世界選手権で外国人選手含む「今日の一本」を放送してほしいなあ。

 決勝戦は、業師加藤と、今年の世界選手権100キロ級代表、ウルフアロン。加藤は90キロ級の選手。体重無差別の大会で、100キロ以下の選手同士が決勝戦、というのは過去例がない。しかしこれも、柔道が体格でも力でもなく、技、相手の力を利用する技術、また、相手の心の動きを読んで試合の流れを作る技量、そうした総合力で戦う競技であることが証明された決勝戦の組み合わせ。

 加藤が上手な組み手でウルフの技を封じて、技が出ないが緊迫した好内容で延長に。ポイントがなくても、技が出なくても、好内容の勝負がある、ということが、穴井さんの名解説でよく伝わる。
 延長に入ると、加藤が巴投げ、ウルフの体が大きく浮くが、ウルフが空中で姿勢を制御して、ポイントなし。
 流れをやるまいと、すかさずウルフも技を繰り出す。
延長1分半になるかというとき、がっちりと組み手を制したウルフが、支えつり込み足を繰り出すと、加藤が豪快に宙に舞い、ウルフ技あり奪取。見事な優勝でした。

 ウルフの男泣きのインタビュー、その後、ウルフと加藤が和やかに語り合いながら、参加選手全員が畳に上がっての表彰式、井上康生全日本監督へのインタビューと、続いて放送終了。

ね、柔道の試合自体の魅力が100%伝わるでしょう。余計な演出はいらないでしょう。これが、スポーツ中継の理想形だと思います。。


追記

最年長33歳業師・加藤と、最年少17歳・斎藤立 の名勝負を書くのを忘れました。国士館の先輩後輩です。三回戦で激突して、体重差40キロくらいあったのですが、まずは小内巻き込みで加藤が有効を取り、試合半ば、巴投げくずれのような形で寝技に引き込んだ加藤が、斎藤の肘を極めながら裏返して後ろ袈裟固めで一本勝ち。まさに相手を「子ども扱い」して完勝でした。業師の面目躍如、この試合もあって、準優勝ではあったけれど、この大会の主役は加藤だったかなと思います。





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最悪の世界リレー中継大会一日目。でも大会は最高に面白かったのだ。TBSはもったいないことをしたのだ。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

最悪の世界リレー中継大会一日目。でも大会は最高に面白かったのだ。

ここからは、一晩明けて書いたこと。

「それからね。

昨日の世界リレーでの快挙のひとつは、男子マイルリレー(400m×4)で、日本男子が、予選2組一着で決勝に進んだこと。しかも、参加16か国(一か国棄権して走ったのは15か国)中、アメリカ、トリニダードトバコに次いで、全体三位の好タイムだったこと。マイルリレーの人気は、世界的に言うと、100m×4と並んで、きわめて高い。もしかすると100m×4よりも人気が高いかもしれない。そういう大メジャー競技でのこの成績は、本当に快挙。

だから、今日の二日目は、マイルリレーの男子が。決勝でどこまで戦えるか、という、大注目の話題が実はあるのですが、残念ながら昨日の一日目、地上波放送だけを見た人は、そんなことはひとかけらも知りません。
期待の男子、100m×4リレーでバトンに失敗したことしか知らないので、今日の放送は見るつもりもないでしょう。

 さて、ここから、昨日に引き続き、TBS批判ですが、TBSのビジネスのために、スポーツ番組で視聴率を取るために、という建設的意見として書こうと思います。

TBSは、日本で人気があるのは、オリンピックや世界陸上で連続してメダルを取っている100m×4 男子「だけ」と考えた。だから、地上波での放送は、他の種目は、おまけ的に余裕があれば流すが、とにかく「男子100m×4」だけに注目が行くように番組の構成を考えた。

TBSの、というか、日本の地上波テレビ局のスポーツ番組づくりの考えは、ほぼどこもこんなかんじ。視聴者を以下のように馬鹿にしている。
①ほとんどの視聴者は、過去に実績のある、過去のメダリストしか知らないし、興味がない。
②ほとんどの視聴者は、競技、スポーツそれ自体の面白さはよくわからないので、人間ドラマなどサブストーリーも一緒に伝えないと興味を持ってもらえない。

よって、過去のメダリストやスター選手だけに密着して、過去紹介VTR、試合直前の控室の様子など、「注目選手だけ」を放送し続ける。(他の種目や、他の選手が競技をしていても、それは放送しない。)

この放送の作り方の場合、その注目選手が期待通り活躍したときは、盛り上がるので大成功です。

しかし、スポーツは「筋書きのないドラマ」です。昨日のバトン失敗のように、注目選手、種目が、早々に負けてしまう、ということは、まま、起きます。
そうなったら、その大会は「つまらない大会」なのでしょうか。

そんなことはありません。昨日の世界リレーでも、新競技「シャトルハードル」で日本女子が銀メダルを取り、これも新競技の2×2×400mでも、日本の若手が銅メダルを取りました。
どちらも、今まで見たこともないような、面白い競技で、シャトルハードルは、水泳のように、四人の選手が100mトラックをいったりきたりしますし、
2×2×400mは、一回400mを走った選手が、およそ50秒ほどもう一人が走った後に、二回目の400mを走る、という競技で、解説の朝原さんも「とてつもなくきつい競技なんです。これだけきついことに挑戦するということが伝わればと思います」と解説していました。そんなきつすぎる競技で、日本の若者が銅メダルを取ったんです。

そして、世界で最も人気のあるマイルリレーで日本男子が、史上最高の走りを見せて決勝に進んだんです。

こんな面白い大会は、いままでなかった。本当に素晴らしく面白い大会一日目だったんです。

このことが、TBSの地上波放送を見ていた人には、ひとかけらも伝わりませんでした。

なんともったいないことでしょう。今年、この面白さに気づいたら、来年はもっともっとたくさんの人がこの大会の放送を見ただろうに。
来年と言わず、一日目の放送を、4×100m男子だけをえこひいきせず、面白い競技、せめて日本選手が大活躍した競技だけでも、きちんと放送していたら、
二日目の放送は、大注目を集めたでしょうに。

何度でも言います。柔道でも、陸上でも、およそスポーツというものは「期待したスター選手があえなく敗退する」ことも起きる代わりに
思いもしなかった、新しい選手が、新しい種目が、いままで注目されなかった選手や種目が、驚くべき面白さや感動を与えることが起きるものです。

それが日本人の場合もあるし、日本人選手ではないけれど、ものすごく心動かされる活躍をする選手も出てくるわけです。

そういう、スポーツの持つ素晴らしさを、どうやったら漏らさず伝えられるか。テレビ局に求められているのは、その工夫です。
もちろん、期待のスター選手、期待の種目を伝えることも大事ですが、くだらない人間ドラマを作ったり、過去のスター選手のVTRを長々と流したり、
控室やアップの様子をだらだらとレポートしたりすることは、スポーツ中継には、はっきり言うと、不要です。

スポーツ競技、それ自体の持つ素晴らしさ、感動を、どうやって伝えるか。その第一歩は「今、実際に行われている競技それ自体を、
余計な演出なしに、なんだったらリプレーだって
そんなにいりません。今まさに行われている競技自体を、しっかりと放送すること。

そして、その競技への愛情と理解と尊敬を持った解説者とアナウンサーが、くだらないエピソードではなく、
その競技内容自体を、余計な演出なしに中継解説することです。

どのプレーが素晴らしいのか。どのプレーが感動すべきプレーなのか。それを、いちいち初心者向けに解説しなくても、
競技理解の深いアナウンサーと解説者が、本心から感動ながら実況解説していれば、
そのスポーツの面白さは、よくわからない素人視聴者にも「感覚的」に伝わるものです。
そうか、こういうプレーがこのスポーツではいいプレーなんだ。ここが見どころなんだ。
こんなに解説者が叫んでいるっていうことは、これはすごいことなんだな。

そもそもリレーっていうのは、小学校の運動会だって、見ていれば自然に興奮するものです。面白いんです。
人間は、ものすごく速く走る人間が競争しているのを見ると、自然に興奮するように、進化の過程で遺伝子レベルでそうなっているんです。
走るのが速い人間は、狩りででっかい獲物を捕まえたり、戦争で相手をやっつけたりする能力の高い人なわけですから、
そういう人間が、すごいスピードで走っているのを見ると、人間という生き物は興奮して感動するようにできているんです。余計な盛り上げ情報はいらないんです。

テレビ局のスポーツに関わる皆様、それに助言を与える広告代理店の皆様には、
オリンピックを前にして、こういう、スポーツの魅力の「基本の基本」を、きちんと心に刻んでほしい。

それから、今回であれば、日本陸連ですが、各競技団体の偉い方々。全柔連も、日本ラグビー協会も、すべての競技団体の偉い方たちに申し上げたいのは
地上波テレビの「下手な盛り上げアイデア」に騙されないでください。それは、確実に、ファンを怒らせ、減らします。ツイッターなどの反応をきちんと見てください。
たいていのフィギュアスケートファンは、テレ朝の放送に怒っているでしょう。ほとんどの陸上ファンは昨日の世界リレーに怒っているでしょう。
ほとんどのゴルフファンはTBSのマスターズ放送に怒っているでしょう。ほとんどのラグビーファンは、日本vs南ア戦の奇跡の快挙を放送しなかった日テレを許していないでしょう。

地上波テレビ局の現在のスポーツ放送の在り方は「視聴率」という数字を追うことに目を奪われて、「本当のスポーツファン」を激怒させ、
それだけでなく、今はよくわからない普通の視聴者が、本当のスポーツファンになっていく「スポーツそのものの魅力に気づく」機会を奪っています。

全柔連の皆さん、日本陸連の皆さん、日本ラグビー協会のみなさん、自分たちの競技のもつ面白さに自信をもってください。

テレビ局に対して「くだらない盛り上げ策ではなく、とにかく、一試合、一競技でも多く、試合そのものを、競技そのものを放送すること」を、放送権を販売するにあたって、条件にしてください。

フィギュアスケートであったら、「日本人スター選手の盛り上げVTRや控室の様子を流す時間があったら、外国人選手の試合、競技している姿をきちんと放送してください。」と交渉してください。これは多くのフィギュアスケートファンもそう思っている、賛成してくれると思います。
全柔連であったら、例えば選抜体重別のような国内大会であれば、「過去のメダリストだけに注目するのではなく、できるだけ全部の試合、全部の階級を放送してください。思わぬスターが登場する瞬間を逃さない様にしてください」と交渉すべきです。日本の柔道のレベルの高さは、メダリストと互角の選手がどの階級もひしめいていて、メダリストだって国内大会だ勝てる保証は全然ないほどすごいのだ、ということが伝わる放送にしてもらいましょう。
ラグビーワールドカップにあたっては、「日本戦以外の試合をきちんと放送すること」を徹底してください。南半球の、ヨーロッパの、太平洋の島の人たちの、それぞれのラグビーの楽しさが十分伝わるようにしてください。そうすれば、そういう国と日本の試合を見る楽しさも何倍にもなりますし、もし、日本が一次リーグで敗退することになっても、決勝トーナメントも盛り上がって、視聴率も取れるようになるでしょう。そのことが、今後の日本ラグビーの育成にどけだけ大切なことかを、ラグビー協会の皆さんは真剣に考えてほしいと思います。

今の、地上波テレビ局のスポーツ担当の考え方は、古いし、はっきりと間違っています。スポーツファンがどんどん離れていく内容です。「コアなファンはどうせネット中継に流れるんだから」と、視聴者をバカにしたレベルの低い放送内容にどんどん流れていって、自分たちの首を絞めています。

そのことが象徴的に表れたのが、昨日のTBSの「世界リレー」の大失敗放送だったのです。」
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世界リレーの、TBS大失敗放送に思うこと。 [スポーツ理論・スポーツ批評]

まずは中継見ながら書いたFacebook投稿。
「TBSにはスポーツ中継する資格なし。五輪の放送権も与える必要なし。

BS-TBSで世界リレー、世界初の新種目、2×2×400(男女一人ずつが400mを2回ずつ走る)を放送中、第3走者からアンカーに渡るところで突然放送終了。(8時50分まで。)地上波にリレーかと思いきや、地上波はまだ前の番組を放送中、地上波世界リレーに切り替わっても(8時52分)、男子100×4リレーメンバーのアップ映像を流すだけ。

2×2×400mリレーは、実は日本の若手二人、
クレイアーロン竜波(相洋高校)
塩見綾乃(立命館大学)
みごと3位銅メダル獲得。この快挙を放送しないとは。しかも競技途中でぶったぎるとは。

地上波放送は男子100m×4のあおり情報、織田裕二と中井美穂のおしゃべりを流し続ける。

選手、競技、「今やっている競技」への敬意の無いTBSには、スポーツ中継をする資格はない。今までもいろいろひどかったが、今日のは最悪。

電通現役スポーツ関係のみなさん、TBSにきちんと要望を出して、東京五輪中継がまともな放送になるようにお願いします。このような放送の仕方では、視聴者が怒って、中継をぶったぎって流れるTVCM広告主までもが「悪者」に見えてしまいます。視聴者の怒りが広告主にまで向けられてしまいます。広告主のためにも、TBSがまともなスポーツ中継をするよう、五輪に向けて、なんとかしていただきたく。

チケット受付初日に東京五輪の陸上走り幅跳び決勝の時間と、男子100×4の決勝の時間帯、柔道60、66、73の3日間予選決勝全部、ハンドボールの決勝戦のチケット予約申し込みをしてしまった。本当に見たい競技は観に行くか、ネット中継でちゃんとフルにやってくれないと、地上波放送はおそらく日本選手あおりVTRだらけで、まともに競技を放送しない最悪放送だらけにこのままだとなるなあ、確実に。トホホ。

と思ったら、地上波中継も競技途中で終了。まじ、最悪。」

ここからは、一晩明けて書いたこと。

「それからね。

昨日の世界リレーでの快挙のひとつは、男子マイルリレー(400m×4)で、日本男子が、予選2組一着で決勝に進んだこと。しかも、参加16か国(一か国棄権して走ったのは15か国)中、アメリカ、トリニダードトバコに次いで、全体三位の好タイムだったこと。マイルリレーの人気は、世界的に言うと、100m×4と並んで、きわめて高い。もしかすると100m×4よりも人気が高いかもしれない。そういう大メジャー競技でのこの成績は、本当に快挙。

だから、今日の二日目は、マイルリレーの男子が。決勝でどこまで戦えるか、という、大注目の話題が実はあるのですが、残念ながら昨日の一日目、地上波放送だけを見た人は、そんなことはひとかけらも知りません。
期待の男子、100m×4リレーでバトンに失敗したことしか知らないので、今日の放送は見るつもりもないでしょう。

 さて、ここから、昨日に引き続き、TBS批判ですが、TBSのビジネスのために、スポーツ番組で視聴率を取るために、という建設的意見として書こうと思います。

TBSは、日本で人気があるのは、オリンピックや世界陸上で連続してメダルを取っている100m×4 男子「だけ」と考えた。だから、地上波での放送は、他の種目は、おまけ的に余裕があれば流すが、とにかく「男子100m×4」だけに注目が行くように番組の構成を考えた。

TBSの、というか、日本の地上波テレビ局のスポーツ番組づくりの考えは、ほぼどこもこんなかんじ。視聴者を以下のように馬鹿にしている。
①ほとんどの視聴者は、過去に実績のある、過去のメダリストしか知らないし、興味がない。
②ほとんどの視聴者は、競技、スポーツそれ自体の面白さはよくわからないので、人間ドラマなどサブストーリーも一緒に伝えないと興味を持ってもらえない。

よって、過去のメダリストやスター選手だけに密着して、過去紹介VTR、試合直前の控室の様子など、「注目選手だけ」を放送し続ける。(他の種目や、他の選手が競技をしていても、それは放送しない。)

この放送の作り方の場合、その注目選手が期待通り活躍したときは、盛り上がるので大成功です。

しかし、スポーツは「筋書きのないドラマ」です。昨日のバトン失敗のように、注目選手、種目が、早々に負けてしまう、ということは、まま、起きます。
そうなったら、その大会は「つまらない大会」なのでしょうか。

そんなことはありません。昨日の世界リレーでも、新競技「シャトルハードル」で日本女子が銀メダルを取り、これも新競技の2×2×400mでも、日本の若手が銅メダルを取りました。
どちらも、今まで見たこともないような、面白い競技で、シャトルハードルは、水泳のように、四人の選手が100mトラックをいったりきたりしますし、
2×2×400mは、一回400mを走った選手が、およそ50秒ほどもう一人が走った後に、二回目の400mを走る、という競技で、解説の朝原さんも「とてつもなくきつい競技なんです。これだけきついことに挑戦するということが伝わればと思います」と解説していました。そんなきつすぎる競技で、日本の若者が銅メダルを取ったんです。

そして、世界で最も人気のあるマイルリレーで日本男子が、史上最高の走りを見せて決勝に進んだんです。

こんな面白い大会は、いままでなかった。本当に素晴らしく面白い大会一日目だったんです。

このことが、TBSの地上波放送を見ていた人には、ひとかけらも伝わりませんでした。

なんともったいないことでしょう。今年、この面白さに気づいたら、来年はもっともっとたくさんの人がこの大会の放送を見ただろうに。
来年と言わず、一日目の放送を、4×100m男子だけをえこひいきせず、面白い競技、せめて日本選手が大活躍した競技だけでも、きちんと放送していたら、
二日目の放送は、大注目を集めたでしょうに。

何度でも言います。柔道でも、陸上でも、およそスポーツというものは「期待したスター選手があえなく敗退する」ことも起きる代わりに
思いもしなかった、新しい選手が、新しい種目が、いままで注目されなかった選手や種目が、驚くべき面白さや感動を与えることが起きるものです。

それが日本人の場合もあるし、日本人選手ではないけれど、ものすごく心動かされる活躍をする選手も出てくるわけです。

そういう、スポーツの持つ素晴らしさを、どうやったら漏らさず伝えられるか。テレビ局に求められているのは、その工夫です。
もちろん、期待のスター選手、期待の種目を伝えることも大事ですが、くだらない人間ドラマを作ったり、過去のスター選手のVTRを長々と流したり、
控室やアップの様子をだらだらとレポートしたりすることは、スポーツ中継には、はっきり言うと、不要です。

スポーツ競技、それ自体の持つ素晴らしさ、感動を、どうやって伝えるか。その第一歩は「今、実際に行われている競技それ自体を、
余計な演出なしに、なんだったらリプレーだって
そんなにいりません。今まさに行われている競技自体を、しっかりと放送すること。

そして、その競技への愛情と理解と尊敬を持った解説者とアナウンサーが、くだらないエピソードではなく、
その競技内容自体を、余計な演出なしに中継解説することです。

どのプレーが素晴らしいのか。どのプレーが感動すべきプレーなのか。それを、いちいち初心者向けに解説しなくても、
競技理解の深いアナウンサーと解説者が、本心から感動ながら実況解説していれば、
そのスポーツの面白さは、よくわからない素人視聴者にも「感覚的」に伝わるものです。
そうか、こういうプレーがこのスポーツではいいプレーなんだ。ここが見どころなんだ。
こんなに解説者が叫んでいるっていうことは、これはすごいことなんだな。

そもそもリレーっていうのは、小学校の運動会だって、見ていれば自然に興奮するものです。面白いんです。
人間は、ものすごく速く走る人間が競争しているのを見ると、自然に興奮するように、進化の過程で遺伝子レベルでそうなっているんです。
走るのが速い人間は、狩りででっかい獲物を捕まえたり、戦争で相手をやっつけたりする能力の高い人なわけですから、
そういう人間が、すごいスピードで走っているのを見ると、人間という生き物は興奮して感動するようにできているんです。余計な盛り上げ情報はいらないんです。

テレビ局のスポーツに関わる皆様、それに助言を与える広告代理店の皆様には、
オリンピックを前にして、こういう、スポーツの魅力の「基本の基本」を、きちんと心に刻んでほしい。

それから、今回であれば、日本陸連ですが、各競技団体の偉い方々。全柔連も、日本ラグビー協会も、すべての競技団体の偉い方たちに申し上げたいのは
地上波テレビの「下手な盛り上げアイデア」に騙されないでください。それは、確実に、ファンを怒らせ、減らします。ツイッターなどの反応をきちんと見てください。
たいていのフィギュアスケートファンは、テレ朝の放送に怒っているでしょう。ほとんどの陸上ファンは昨日の世界リレーに怒っているでしょう。
ほとんどのゴルフファンはTBSのマスターズ放送に怒っているでしょう。ほとんどのラグビーファンは、日本vs南ア戦の奇跡の快挙を放送しなかった日テレを許していないでしょう。

地上波テレビ局の現在のスポーツ放送の在り方は「視聴率」という数字を追うことに目を奪われて、「本当のスポーツファン」を激怒させ、
それだけでなく、今はよくわからない普通の視聴者が、本当のスポーツファンになっていく「スポーツそのものの魅力に気づく」機会を奪っています。

全柔連の皆さん、日本陸連の皆さん、日本ラグビー協会のみなさん、自分たちの競技のもつ面白さに自信をもってください。

テレビ局に対して「くだらない盛り上げ策ではなく、とにかく、一試合、一競技でも多く、試合そのものを、競技そのものを放送すること」を、放送権を販売するにあたって、条件にしてください。

フィギュアスケートであったら、「日本人スター選手の盛り上げVTRや控室の様子を流す時間があったら、外国人選手の試合、競技している姿をきちんと放送してください。」と交渉してください。これは多くのフィギュアスケートファンもそう思っている、賛成してくれると思います。
全柔連であったら、例えば選抜体重別のような国内大会であれば、「過去のメダリストだけに注目するのではなく、できるだけ全部の試合、全部の階級を放送してください。思わぬスターが登場する瞬間を逃さない様にしてください」と交渉すべきです。日本の柔道のレベルの高さは、メダリストと互角の選手がどの階級もひしめいていて、メダリストだって国内大会だ勝てる保証は全然ないほどすごいのだ、ということが伝わる放送にしてもらいましょう。
ラグビーワールドカップにあたっては、「日本戦以外の試合をきちんと放送すること」を徹底してください。南半球の、ヨーロッパの、太平洋の島の人たちの、それぞれのラグビーの楽しさが十分伝わるようにしてください。そうすれば、そういう国と日本の試合を見る楽しさも何倍にもなりますし、もし、日本が一次リーグで敗退することになっても、決勝トーナメントも盛り上がって、視聴率も取れるようになるでしょう。そのことが、今後の日本ラグビーの育成にどけだけ大切なことかを、ラグビー協会の皆さんは真剣に考えてほしいと思います。

今の、地上波テレビ局のスポーツ担当の考え方は、古いし、はっきりと間違っています。スポーツファンがどんどん離れていく内容です。「コアなファンはどうせネット中継に流れるんだから」と、視聴者をバカにしたレベルの低い放送内容にどんどん流れていって、自分たちの首を絞めています。

そのことが象徴的に表れたのが、昨日のTBSの「世界リレー」の大失敗放送だったのです。」
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読書記録『ある男』 平野 啓一郎 (著) を読んで。 [文学中年的、考えすぎ的、]

『ある男』 平野 啓一郎 (著)

 謎を追っていく小説であり、社会的問題を深く織り込んだ作品なのですが、しかし、その一番深くにあるものは、「人はなぜ、文学を、小説を読むのか」ということだと、私には思われた。最終章に、そのことが、この上もなく感動的に結実する。
 そこに至るまでは、謎解き興味で読みつないできたはずなのに、最終章、思いもかけず、ボロボロと泣いてしまいました。この小説の筋立て展開としてもそこは大変に感動的なのですが、私が泣いてしまったのは、小説、文学、読書ということについて私が考えてきたことと共感共鳴する考え方が、大変に美しいエピソードの中に語られていたためだろうと思います。

 ここ最近読んだ、日本の純文学小説としては、出色の出来と思いました。最近の日本文学の潮流通りに、震災後の、政治の右傾化に対する鋭い批判が大きな比重を占めて語られますが、そのことに、小説が押しつぶされていません。そうした社会的視点を多く盛り込みつつ、より深いテーマが見事に表現されています。
 「読んでいる間、他人の人生を生きる」という小説の本質をメタ構造として小説内に取り込みつつ、ある種の人間(読書家)にとっては、「文学が救いになる」ということ。人生の困難に立ち向かうために、文学がどうしても必要なものなのだということを美しく力強く描いています。

 間違いなく、純文学の力作ですので、その方向がお好きな方にはお薦め。エンターテイメントとしての小説が好き、という方には、「真面目すぎ」と感じられるかも。
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